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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


 次の日も雨だった。わたしはまた、お家へ向かって歩いた。気分は昨日のまま重く、足も重かった。まだわたしの大切なものがつぶされて残っているはずだった。もうどうでもいい気もしたが、でもあとで悔やむのもいやなので、あるだろうはずのさがしものをしに家へ向かって坂を登っていった。後ろでクラクションが鳴った。彼女だった。わたしは、突然に空が裂けて陽が射した嵐のなかにいるように、とまどった。
「美千夫さん、乗って」彼女は歯切れがよかった。わたしは右側のドアから助手席に乗った。彼女の車は左ハンドルだった。
「ありがとう、ふみさん」わたしは沼の底から救われたように感じた。
「今日は有休を取ったんです、美千夫さんのお手伝いしようと思って!」…
 ああ、あやさん、ありがとう、わたしを暗黒の泥沼から救ってくれて!いい人だ。
「美千夫さん、灰川家のお話、ご存知ですか?」
「いえ、詳しくは…」
「灰川家はこの町の名士で、村長や町長を代々務めてきたんですけど、ある時から没落が始ったんです。それって美千夫さんもご存知のお寺のこと。お寺をこの土地から追い出して、お屋敷を建てて…それからなの、町中に変なうわさが広まり出したのは…つまり幽霊が昼間でも出るって」彼女はいっきにそこまで話して、家の前で車を止めて、降りた。
 家はかなり解体が進んでいた。半日でずいぶんと壊して分解してしまうものだ。なにごとも潰すほうがたやすいのだ…あの森だって、破壊するのは一瞬だった。それがあの大きさに育まれるまでにどれほどの年月が経っていたことか…
 彼女はもうすでに瓦礫のなかを捜していた。わたしは申し訳ない気がした。なぜなら、わたしの大切な物って、たいていの人にとっては、ゴミと同じものだったから、彼女にそんなものを捜させるのは気がひけたのだ。それにこんな雨じゃ、ますます瓦礫と同化してしまっていたから。わたしにはそれが鮮明に見えたけれども。彼女には見えるだろうか…
「美千夫さん…これ、なにかの実でしょ!」彼女はすばらしかった!あのツクバネの果実を捜し出すなんて。四枚の羽根はひとつを残して折れていたけれども、彼女にはそれがわたしの大切なものだとわかったのだ。わたしはそれを受け取り、バッグのなかに入れた。彼女の捜し出したものはそれだけではなかった。わたしの代わりに、彼女は次々とわたしの大事にしてきたものを見つけた。特に書棚に並べていたグラスを!割れたものもあったけれども、そのかけらまでも見つけてくれたんだ。それらはわたしの母が大切にしていたもので、割れても、粉々になっていても、わたしにはもっとも大切な宝物だったのだ。彼女にはそれがわかったのだ。本能的にわたしを理解してくれているのだと感じた。
「これ、美千夫さんの?」彼女がノートを持ってきた。泥で汚れていたけれども、わたしのものでないことはすぐにわかった。わたしの字ではなかった。わたしも細かい字を書くけれども、もっとそれよりも小さく、ほとんど文字のようには見えず、オリエントの模様のように見えた。
「誰のだろう、どこにありました?」
「そこの床下から出てきたと…」彼女は作業員のひとりを指して、そしてあの部屋の床下を指差した。もう床はなく、ピアノが足を折って傾いている、あのあたりはいつもライが眠っていた場所で、猫用マットを結局そこに移してやったあたりだった。
「野川さん、これも落ちていました」その作業員がわたしたちに、厚手のビニール袋に入っている本を持ってきた。
「たぶんノートもこのなかにあったんじゃないですか…もう一冊これが」そう言って彼は、ぶ厚い日記帳をわたしに手渡した。表紙を開けるとそこに「灰川道緒」とサインがあった。彼女もそれをわたしの横から覗き込んだ。
「ああ、なんだかわたしと縁がある人みたい…」彼女はそれを手にとってめくっていった。同じ「灰川」という名前に、どこかで繋がっている、いや、繋がっていてほしいと思う気持ちが動いたのかもしれない。わたしと同じ、「みちお」という響きにも、何かを感じたのだろうか、わたしはそう思いたかった…
「これ、日記帳ですね」そう言ってわたしにそれを返し、わたしの手にあるもう一冊の本をとって、ページをめくっていった。裏表紙を開けた時、彼女の手が震えだした。ある一点を見つめている。わたしもそこを覗き込んだ…「灰川礼」とサインがあった。わたしは、彼女の手とともに震える本に、そっと手を添えた。
「なぜ?…どうして?…」彼女がつぶやいた。
「どうしたの?」わたしはたずねた。
「…これ、祖母の名前なんです…」そう言って彼女はそのサインを撫でた。
 そのときだった。雲が切れてひとすじの陽の光が地上にとどいた。もう雨は止んでいた。わたしの粉々になった「お家」のあたりを、太陽が照らした。
「見て!」わたしは彼女に言った。
「ああ…綺麗!…」彼女は光の道をたどって、天を仰いだ。
「こんなことって、あるんですね…ああ、素敵!」彼女は傘をたたみながら言った。
 光はしだいにその数を増やして、わたしたちも、作業員の彼らも、照らした。みんな上を見上げた。濃紺の雲のパズルが割れて、光のすじが幾重にも交差して、わたしたちすべてに光のヴェールを被せた。
 彼女は本とともに手を高くかざして言った。
「おばあさま…」
「あそこにおばあさまがいる…」彼女は天を指差した。わたしには見えなかったけれども、彼女には何かが見えたのだろう。わたしもその雲の動きを見つめた…ゆっくりとそれらは回転しながら、南の方へ移動して行った。
 彼女は、本を胸に抱いていた。
「その本、持って行きます?」わたしは彼女にそれをあげてもいいと思った。
「いいんですか?…」胸のなかにあるその本は、すでに彼女のもののようだった。いや、彼女のものになっていた。彼女の一部になっていた。母の胸に融け込もうとする子供のように…
「ぼくのものでもないですし…何か研究の材料になれば…」
「研究ですか?」
「ええ…だってあやさん、図書館員でしょ」わたしが笑うと、
「そうですね…でも美千夫さん、わたし図書館員じゃなくて、一応図書館司書ですのよ」
「司書?」
「そう、司書…ふふふ」髪の毛を左手で耳にかきあげながら、彼女も笑って言った。
 なんて可愛い人なんだろう。わたしは思った、この人と知りあえてよかったと。

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