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Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


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 突然、その夢を破る、騒音が響いた。また杭打ちが始まったのだ。ここ数日は、その作業はある原因で止まっていた。また事故があったのだ。パイルを運んできたトラックが横倒しになり、作業員数人が下敷きになって死んだ。わたしは図書館の新聞でそれを知ったのだが、たぶん予感のようなものがあったのか、なんの感情も動かなかった。ただ、命を落とした作業員には、お屋敷に向かって手を合わせてやった。
「入りましょうか」わたしは彼女を家のなかへ誘って、いちばん西側のアトリエに案内した。窓を閉め切って、騒音を遠くにし、なにか音楽をかけて、耳をまぎらわした。
「絵をお見せしましょうね」わたしは、植物画を箱から取り出して彼女に見せた。ペキンライラックの若い果実を描いたものだった。
「ああ、素敵…なんてグリーンが美しい!」食い入るように、絵に顔を近づけて彼女は見ていた。今までにわたしの絵を見て、色を美しいと言った人はいなかった。たいていは、細かいですね、とか、写真のようですね、と言って、色を感じてくれた人は、彼女が初めてだった。
「まだこれは未完成で、いつか花を描き入れる予定なんです」
「…」彼女は聞いていなかった。彼女の膝の上のライが、額のガラスに映り込んでいた。そこが気にいったんだろうね、とても気持ちよさそうだった。わたしだって、彼女の膝に抱かれたかったのに…
「これ、なにで描いてあるんですか?」彼女はその美しい爪で絵を指差した。
「色鉛筆です…」
「ええ!…色鉛筆?」ふたたび絵を食い入るように見つめた。
「なにで描いてあるのか、わからなかったんです…図書館のボタニカル・アートの本、すべて見てるんですけど…わからなかった」絵を見ながら彼女は言った。その息がガラスを白く曇らせていた。 
「これです、この色鉛筆で…」わたしは彼女に、ドイツ製の色鉛筆を数本手渡した。少し、指が触れた。わたしの心臓が熱くなった。
「ああ、綺麗な色!…」そう言って色鉛筆を左手で握り、描く風をして見せた。彼女は左利きだったんだ。シフォンケーキを上手に左手で食べていたから、もしや、そうかなと思っていたけれど。
「わたしも描けるかしら…」わたしに絵を返しながら、色鉛筆の文字を読んでいた。
「やる気さえあれば、誰でも描けますよ」彼女がこちらを向いた。
「野川さん、教えていただけますか?」わたしは彼女から色鉛筆を受け取りながら、頷いた。
「ええ…やってみますか!」
「ええ、やってみます!」彼女の顔が、一面のボナールの絵となって輝いた。


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