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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
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photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


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 あの日、お屋敷の森が壊されるとき、ライはどこかに消えていた。わたしには動物を飼っている感覚はなかったので、別に気にはしなかったけれど、薮が取り払われ、お屋敷の囲みの森までもしだいに取り除かれていくと、とつぜんに、ライに逢いたくなり、庭を探したが、どこにもいなかった。ただわたしは不思議なものを見た。お屋敷の門のところにある大木を最後に切り倒すとき、その木を登っていく動物を見た。木の下ではチェーンソーが唸り、木のてっぺんは、クレーンがその頭をつかんでいた…まるで樹木のたましいを引きちぎるかのように、ワイヤーが天に伸びていた。そのなかを、一匹の猫が…ライかどうかはわからなかったけれど、まるで、樹皮に融け込んで移動する小動物のように、登っていくのを見た。後になって考えると、幻を見たような気もしたが、その不思議な印象は確かに残っていて、わたしの頭を混乱させたので、幻ではなかったと思いたかった。
 その巨木は高く吊り上げられていった。はるか上空にそびえるクレーンの腕が、夕日に赤く染まって、その木のための絞首台のように見えた。
 わたしは玄関先に椅子を持ち出して、それを眺めていた。お屋敷のレンガ塀も、門もすでに取り払われて、その木が一本残っていた数日間、わたしはこうやって、その木の命運を考えていた。ほんとうに切り倒すのだろうか。…大人ふたりが手を伸ばしてようやく幹を囲めるほどの大きさで、こぶや、穴がたくさんあり、なめらかなねずみ色の肌をより白く浮き立たせていた。葉は常緑で艶があり、役目を終えた黄色い葉をところどころに残していた。花は、立春の頃に咲き、わたしの家までもいい香りを届かせていたのに…巨木はなぜ神々しく感じられるのだろう?数日間、玄関ポーチの椅子のなかで、わたしは考えた。存在の静けさ?永い時を経た孤立感?なにものにも動じない絶対感!…とつぜん、ピシッピシッという音が、空中に伝わった…ああ、ワイヤーが一本一本上下にめくれていく…そして、クレーンの腕が、やや上方に跳ねた瞬間、この木がゆっくりと下へ沈み、倒れ始めた…海が波立つような音を立てて、トラックと、作業をしていた人々の上に被さった。だれひとり身動きしなかった。身動きできなかった。静かに上を見あげて、自らの運命を省みて、罰を受け入れるごとく、だれもがただ呆然と巨木の行方を見ていた。そして、自分たちの身体を包んでくれる樹木に対して、感謝するように、胸の前へ手を差し出した…
 木の下敷きになった人々もいたが、そうでなかった人々は、叫び、手を振って、誰かに、どこかに、合図を送っていた。しかし、誰ひとり、その木の洞から、一匹の動物が飛び出てくるのを見た人はいなかった。わたしは、それを見たのだ。あれは「ライ」だった。間違いなくライだった。一瞬のことだったが、わたしにはそのブルーの眼の光るのが見えたのだ。
 パニックを傍観するのは、なんと心が冷めざめとすることか。当事者ではないことがわたしを罪悪の沼に落とし、心を青ざめさせた。一方、当事者ではなかったことが、わたしの心に冷笑を芽生えさせ、人々の混乱をただ眺めるだけの、観客にした。
 わたしは静かに椅子のなかへ沈み込み、その巨木につぶれた人々の冥福を祈った。

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