プロフィール

michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

カテゴリ

小説ブログ 長編小説へ
            人気ブログランキングへ              

リンク

このブログをリンクに追加する

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSリンクの表示

最新トラックバック

最新記事

最新コメント



(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
          * *  

 …わたしは目覚めた。ここはどこだろう?見たことのない部屋だった。すべてが白かった。壁もカーテンも、シーツもベッドも、わたし自身も純白だった…ああ、たぶんあの世かもしれない。はじめて見るあの世界。すべてが白く、汚れもなく、穢れもない世界。わたしがあこがれた、この空間は、わたしのものになったのだ、ついに…
「鵜沓さん、起きて!」白い女が立っていた。
「さあ、身体拭きますよ!」そう言ってわたしのシーツをいきおいよく剥がした。そして、わたしの着ているものを手際よく脱がし、身体を拭いた。すみずみまで、耳の穴から、足の指のあいだまでも。わたしはそれをじっと見ていた…わたしを横向きにしたあと、ひっくり返し、背中も拭いた。首も、お尻も、足の裏も…なぜかわたしは女たちのなすがままで、力が身体のなかにひとつも残っていないかのようだった。腕を持ち上げられても、人のもののようだった。背中も、太腿も、足の先も、ほかの人のものだった。なにも感じないし、どの部分も動かせなかった。たぶん脳みそのみ生きていて、身体は死体なのだろうと思った。ただ目玉だけは、白い女たちを追っていた。裏返されてもなお、左右に眼を動かして、状況をつかもうとした。
「はい、おわり!」「綺麗になったわね!」「それじゃまた来ますね」
 女たちはそう口々に言って、あっというまに消えていった。あとには、白い、なお白い空間が残っていた。

 天井を見つめていたわたしは、その白い天井に、真白いがゆえに、だれかの顔、人の姿が浮かんでくるのを待った。白という色は、とても濃厚で、とても暗く、とても破壊的な色なのだ。白の補色が暗黒だということをあなたは知っている?わたしの眼は壊されて、なにも見えなくなっていたのか…暗闇以外の色彩も感じられなくなっていた。けっして眠っているのではない、暗さとその圧迫力をちゃんと感じていたから。
 手で、空を切ろうとしたけれど、わたしの手は、なかった。手も、それに続く腕も、見えなかった。脚も見えないし、身体すらなかった。さっき、白い女たちに拭いてもらっていた身体は、どこ?わたしの可愛い、からだ…
 考えることは、心をつらくするだけだなと思った。だからわたしは、考えることをやめた。思うことも心を冷たくさせるだけだった。だからわたしは、思うこともやめてしまった。残されたのは、ただ、目玉を左右に振るだけ。それはけっして楽しい作業とはいえなかったけれども、いまのわたしには、この暗闇にいるわたしには、唯一存在を示すための行動だった。でもまばたきができないのか、しだいに目玉は乾いていき、左右する動きはだんだんと鈍くなり、軋む音をさせて、止まってしまった…目玉の前に、まん前に、なにかがいた。鼻から出る息がわたしの唇にあたっていた…ご、ごめんなさい、お母さん!ごめんなさい、ゆるして!…だって、母の匂いがしたから、母だと思った…
「りょうちゃん…」ああ、やっぱり母だ、母の声だ、懐かしいお母さんの…
「りょうちゃん…起きて」わたしの身体をゆすった…ああ、血が流れる、身体中に熱い血が流れ下っていく、指先も、胸の中心も、足の先までも、血がしびれるように、めぐっていった。
「りょうちゃん、おはよう…」

 眼を開けると、あやがいた。わたしのベッドの横に立って、わたしの顔をのぞき込んでいた。これは幻だった、きっと幻なのだと思った。そうでないのなら、わたしは、いや、わたしたちは、天国で再会したのだ。きっとそうだ。天国、あの世、あの世界、わたしがあこがれた、父も母も、伯母も、あやもいる、あの世界…
「ちょっと、りょうちゃん!」パシッと、あやがわたしの頬をぶった…もういちどぶった…あら、あやじゃない。わたしはほほえんだ。
「あやちゃん?」…ふふふ、あやじゃないの?
「なに言ってるの、りょう、早く起きなさいよ!学校遅れるよ!」
「学校?…」わたしは依然として、だれかにだまされているのだ、きっと。時がもとに戻るはずはなかった。あの時に、あの時のわたしに。
「お母さんは?…」わたしはためしに、あやにたずねた。
「お母さん?なに言ってるのよ!…お母さん!」あやはキッチンに向かって叫んだ。
「なに、あやちゃん…りょうちゃん、起きた?」…母だ、間違いなく母だ!わたしのお母さん!…ああ、お母さん、抱きしめて、わたしを抱きしめて!
 わたしは母を抱きしめた、しびれたままの腕で、強く、抱きしめた、あたたかい…ほとんど炎のようにあたたかい!…そして、次の瞬間、母は見事に砕け散った。焼けすぎた魚かなにかのように、粉々に、いやな臭いを残して、砕け散った。
「ほら、あや?お母さんて、こんなものよ!」…わたしのお母さんて!
 …もうだれもいなかった、真白い部屋のまま、わたしはひとりぽつんと、そこに存在していた…

 …わたしはふたたび、目覚めた…
私の身体が、水に浸かっているのがわかった。腰ぐらいまで、水に浸かっていた。水がときどき、きらきらしている。私のスカートの裾が、水のふちで揺らめいていた。制服のスカーフが近くに落ちて、沈んでいた。わたしはそれを水のなかから拾いあげ、眼のまえにぶらさげた。紺色がさらに濃くなって、ほとんど黒に見えた。
 わたしは思い出した。お屋敷が燃え落ちるのをここで見ていたことを。美しい燃え方だった。空は一面の火の粉に被われて、炎の動きとともに、右に左に振りまかれ、倒れる柱や壁や、無数に舞う瓦が、滝のような水とともに降り落ちてくるのを見ていた。けっしてそれは幻ではなかった。わたしの身体に降りかかるそれらの痛みを、わたしは覚えていたから。水が跳ねて、眼に飛び込むけれど、まばたきもできずに見ていたから。そのうちに、人々がやってきて、わたしの身体を頭と足をつかんで持ち上げ、うすいベッドに載せた。わたしにはすべてが黒く見えたけれども、すべての状況がわかった。わたしの手も胸も脚も、冷たく硬くなっていたけれども、すべての感覚は、たましいのなかにあった…
 ああ、りょう!…ここよ、りょうちゃん!わたしはここにいるよ…ここに、いる…
 暗闇とはほんとうは、すべてを含む深い海なのだと、わたしはさとった…


comment

ブログ管理人のみ

trackback

trackback_url

http://tensey.blog12.fc2.com/tb.php/260-e1bc8365
| HOME |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。