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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


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 あれ以来、堅く閉ざされていたお屋敷の門の、鉄の扉が少しだけ開いていた。わたしたちは、玄関へと走った。早く母に会いたかったのだ。扉を開けると、母を呼んだ。わたしの声がお屋敷に響いた。返事はなかった。あの部屋、あの処刑のあった部屋の扉がかすかに開いていた。わたしはそっと開けてみた。ああ、あのすばらしき悪夢を想い出させる…だれもいなかった。なにもなかった。シャンデリアも、ベッドも、ただ、不思議な形の塔だけが暗闇にぼんやりと見えた。奥の部屋へわたしたちは行った。たぶんあの部屋だとわたしは感じた。その部屋は、父の母親が使っていた部屋―父のノートに家の平面図が描いてあって、「母の」とメモしてあった―あの部屋の前に来た。あの時のように、ドアの下から光が漏れて揺れていた。そっとドアを開けると、ベッドの上に母が眠っていた。腕を胸の両側に開いて、まるで、母の本棚で見た、水に浮かぶオフィーリアのように、眼を半開きにしたまま眠っていた。窓からの光が部屋のなかで散乱して、母は美しい死体のように見えた。
「お母さん…」わたしは小さな声で呼びかけた。もしも死んでいたらどうしようと思いながら…
「お母さん…」もういちど呼びかけた。こんどは少し大きい声で。
「……」ああよかった、母の瞼が動いて、眼が天井の光の反射を追った。
「お母さん、お友達を連れてきたの…」
 母は胸の上に片手をのせて、ゆっくりと起き上がった。こんなに美しい母を見たことはいままでになかった。今朝までの母の顔とは違っていたのだ。あの写真のなかの「伯母」の顔に似ていた。窓からの光が長く白い髪の毛を透過して、一本一本の銀のすじを輝かせていた。
 母はじっと、「あや」の顔を見つめていた。そして、手で顔を覆った。手の隙間を流れ、唇を伝って、いくつもの泪が落ちていった。母の身体が大きく縦に揺れた。声もなく、嗚咽していたのだ…
 母は立ち上がり、「あや」を抱きしめた…
「りょう…りょうちゃん、わたしのりょうちゃん…」
母は叫ぶように声を絞り出して「あや」の脚にとりすがった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
 「あや」は母の頭を撫でていた。機械的に…顔はほほえんでもいない、怒りの色もない、無表情だった。
 わたしはただ、その光景を見ていた。私もなにも感慨も感激もなかった。こういうことも世の中にはあるものだと、そう思っただけだった。むしろ、わたしの予想通り、母が「あや」を笑顔で出迎えてくれ、よくいらしたわね、と言って、ふたりを抱きしめてくれたとしたら、わたしは泪するほどに嬉しかっただろうけれど…そして、わたしの妹が生きていたことにしだいに気づき、感動して、喜びに泪を流してくれていれば…
 母は謝り続けていた。「あや」は首を横に振って、少しわずらわしそうだった。
「お母さま…どうぞ立ってくださいませ」「あや」がそう言って母をベッドに座らせた。わたしたちも母の両側に座った。母はふたりを両腕に抱いて、交互に頭を寄せた。
「お母さん…わたしの妹?あや?」わたしは母に確認した。
「…そう、ほんとうの、りょう」やはりそうだったのだ。わたしは「あや」で「りょう」ではなかった。「りょう」は仮の名で、ほんとうは「あや」だったのだ。でも「りょう」がなにかの理由でいなくなり、わたしが父のために「りょう」と呼ばれるようになったのだ。わたしはほんとうは「りょう」ではなく「あや」なのだ。だから妹は「あや」ではなく「りょう」なのだ。
「りょう?」わたしは妹に確認した。
「いいえ、あたしはあやよ!…佐々木綾(あや)!」妹はきっぱりと言った。
「ごめんなさいね、りょうちゃん、この子は一歳のときにお父さまのお姉さま、麗紗さんが、佐々木家へ養子に出したの…わたしは悲しかったけれど、仕方がなかったの…灰川家は双子で家が潰れると、麗紗さんが言ったの、わたしたちはその言葉が真実であることを知っていたし、もうこれ以上、罪を犯すことができなかった…罰を受けることも限界だったの…そして、わたしの母の知り合いだった、佐々木校長に相談して、校長先生の親戚へ養子にもらっていただいたの…あやちゃん…ごめんなさいね、わたしの本意ではなかったけれど、あなたを手離したわたしは、どんなに責められてもいい…でもあなたがこんなに元気に育ってくれていたことが、わたしは嬉しかったの…りょうちゃんもごめんなさいね、あなたの名前を勝手に呼び変えてしまったこと、お父さまとともに謝ります…」母はわたしと、妹の手を握り、交互に頭にキスをして、許しを乞うた。
 わたしは母を許した。たぶん許した。でも、妹のあやの心はわたしには読めなかった。硬い鎧で閉ざしていて、隙間からひとすじの光も、見えなかった。


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