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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


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 次の日も、また次の日も、わたしはその子を捜した。どの車両も捜したが、見つからなかった。
 ある土砂降りの日、わたしは駅にたどり着くまでにずぶ濡れになっていた。傘はさして自転車に乗ったけれど、全然役に立たなかった。スカートからは雫が垂れて、髪の毛も首に貼りつき、みんながわたしを横目で見て、くすくす笑いながら電車に乗り込んでいった。わたしは濡れていることはどうでもよかった。またあの子を捜さなければならなかったのだ。ぽたぽたと、髪の毛や袖やスカートから雫を落としながら、ドアのところに貼りつくようにして立った。わたしのようにずぶ濡れの生徒が何人かいたが、みんな友達に拭いてもらっていた…みんなわたしのことはどうでもよかったのだ。冷たい眼で見るものもいなくなり、自分たちの世界のおしゃべりにすぐ夢中になっていった。わたしはその車両の奥から、順々にひとりひとり、背伸びをしながら確かめた。目の前の背の低い女の子がよろけて、わたしにぶつかった。ぶつかっておいて、わたしを睨みつけて、自分の制服が濡れてしまったので、くそ!と言ってハンカチで、なにか汚いものでもぬぐうように拭きとって、その自分のハンカチを投げ捨て、靴で踏んづけた。仲間の女の子たちはそれを見て、指を差して笑いこけた…なにが可笑しいのか、わたしにはわからなかった。その女生徒もいっしょになって、首をのけぞらせて笑った。頭のレベルは猿以下だな、とわたしは思った。
 とつぜんむこうで悲鳴が聞こえた。わたしから五メートルぐらい離れたあたりだった。女生徒たちの頭が一方へ片寄った。座席には鞄を膝に抱えた女生徒がひとり残された。見ると、あの女の子だった。わたしの妹に似ている…いや、あの子は、わたしの妹そのものだった…「りょう!」わたしは心のなかで叫んだ、女の子はわたしを見た、聞こえたんだ、きっと、心の声が。
 その子の鞄からは、大きな緑色のトカゲが顔を出して、ゆっくりと左右に首をふっていた。次々に悲鳴が続いた。笑い声も派手だが、叫び声も女子高生たちは強烈だった。騒ぎを聞きつけ、車掌が人をかきわけてやってきた。そして、女の子の腕をつかんで連れて行った。いつもは機敏な動きを見せない女生徒たちは、ふたりが通るときには、見事に左右にわかれて、まるで船が進むときの波のようにさわやかだった。
 わたしも後を追った。車掌室へふたりは入っていった。わたしもなかへ入った。これから説教しようとしていた車掌は、不意の来訪者に驚いて、ふり返った。
「あんたは?」車掌がかん高い声で聞いた。
「…あの、わたしの妹なんです」わたしはその子の側に立って、かばうように言った。
「わたしの妹なんです?…」車掌は馬鹿みたいに鸚鵡返しに言って、ぽかんと口を開けた。
「ごめんなさい、ゆるしてください、妹は少し頭が弱くって、いつもなんかへまなことをするんです、あたしがよく見てなかったから、ゆるしてください、おねがいします!」
 わたしが立て続けに言ったものだから、車掌は、自分の言葉を失って、黙った。
「おねがいします、こんどからよく言い聞かせますので」
「こんどからよく言ってくださいよ…お姉さんなんだから、いい!」車掌はしぶしぶな顔をして、わたしたちを車掌室から出した。みんながいっせいにわたしたちを見た。わたしはその子の肩を抱いて、いちばん近いドアのところへ行った。みんな道を開けた。みんなにとっては、なにか面白いことが起きたので、自分たちの好奇心と猜疑心を満たすことができて、満足そうに、軽蔑の眼をわたしたちに向けた。
 その子は下を向いていたが、よく見ると、にやにやしていた。変な笑みを浮かべていたのだ。その顔をみんなも見て、呆れ顔でまた、自分たちの世界へ戻っていった。
 いっしょにホームへ降りると、女の子は、ありがとう、と言って階段へ向かって行った。なにも会話はしなかったけれど…ありがとう、と心に聞こえたのだ…その子の心が見えたような気がした。

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