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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


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 長い冬が始まった。わたしは寒さに震えながら、優子とあのお屋敷を見張った。食事のとき、何度か優子が白い粉をスープに入れるのを見た。そのつどどうにかして、スープを優子か校長のと入れ替えたが、だめだったときは、わざと皿ごとこぼしたり、気が狂ったように母に抱きついて、母のスープをだいなしにして、薬を母に呑ませないようにした。このときばかりは、わたしの神経症が役に立ったのだ。

 ある夜中のこと、わたしはいつものようにあの大木の影から、寒さに凍えながら、お屋敷を見ていた。星が降るように鮮明で、月は見えなかった。オリオンが天頂にのぼって、わたしを見おろしていた…玄関にいちばん近い部屋のカーテンがかすかに明るくなった。なかで明かりが動いたのだ。わたしは両腕を抱いたままそこを凝視した…またかすかに赤くぼんやりと光が滲んだ。たしかに誰かがあの開かずの部屋に入っていた。わたしはそっとお屋敷に近づき、その部屋の窓の下に行き、なかの様子に耳をそばだてた…なにも聞こえなかった…わたしは玄関へ行き、鍵をゆっくりと回した。音をたてないようになかへ入り、そっとあの部屋に近づいた。扉の下から赤い光が揺らめくように漏れてきた。ほんとうに誰かいるのだ。わたしは胸が苦しくなった。動悸が激しくなったのだ。胸を押さえると、吐きそうだった。それでもゆっくりと把手を回した。それは低くきしみながら回転した。扉を少しだけ開けてなかを覗いた。蝋燭が一本、宙に揺れていた。その下にはベッドがぼんやり白く浮き上がり、なにかがその上で蠢いていた…そのうちに、ベッドに被せられたシーツが波をうち出し、大きくめくれた…女が上体を起こし、男の上に馬乗りになって身体を前後に揺らしていた…「ああっ!」わたしは思わず声を出した。女は優子だった…男は校長だった。この部屋にまで来て、情事を、それも親子でけがらわしいことをしていたのだ…ふたりがいっせいにわたしの方を見た…わたしは天井を見た。天井のシャンデリアから、男と女がぶらさがっていたのだ…
「……」わたしの喉は声にならない叫びをしぼり出した。男は父だった。女は伯母だった、あの写真のふたりだったのだ。そのふたりがシャンデリアから首を吊ってぶらさがっていた。ふたりの腕はくっついているように見えた。蝋燭の炎が揺れて、その腕が糸で縫ってあるのが鮮明にわたしには見えた。赤いバツ印がふたつの腕のあいだを、交互に突き抜けて縦に並んでいた。さらに、わたしは驚愕した。シャンデリアにひとりの少女が乗っていて、わたしを見てほほえんでいた…なにか閃光が走った。一瞬わたしは眼を閉じた。そして眼を開いた…ゆっくりと、シャンデリアが父と伯母をぶらさげたまま、落下しはじめた。ひとつひとつのクリスタルが前後しながら、あとに残されていくように、ゆっくりと回転しながら落ちていった。父と伯母は、うなだれた首をしだいに上げて、わたしを見た。その眼は、母の眼と同じに宝石のようにきらめいた…
 猛烈な音がして、シャンデリアがベッドを潰した。ガラス音や金属音や、人間の悲鳴をさせて…四本の足がベッドの上でばたついていた。お互いの足を蹴りあげていた。なんという醜態だ!しだいにそのばたつきもゆるくなり、動かなくなった。シャンデリアの鉄の輪のふちに、あの少女が座っていた。そしてわたしを手招きした。
 わたしは一歩ずつ、吸い寄せられるように近づいていった。
「あなたはだれ?…」わたしは手を伸ばしながら聞いた。
「…わたし、りょう」その少女が答えた。
「りょう?」わたしはもういちどたずねた。
「そう、ほんとうのりょう」そのちっちゃな女の子はほほえんだ。
「わたしは…わたしは、あや」わたしはほんとうの名を言った。
「そう、あなたがあや?」
「ええ、わたしがあや…あなたがりょうなのね…ほんとうの…」
「……」わたしは、ほんとうの「りょう」を抱きしめた。ちっちゃなほんとうの「りょう」を抱きしめた。冷たかった。氷のように冷たかった。でもわたしはあたたかかった、わたし自身の心のあたたかさが胸に感じられた。わたしたちは抱きあったまま、眼をつむった…ああ、わたしの妹に逢えたのだ、ほんとうの妹に、どんなにわたしはこの子を求めたことか、父が求めたように、わたしもこの妹を求めていたのだ、いま心が合体し、すべてがわかった、わたしのなかの父と、わたしのなかのあやと、わたしのなかのりょうと、そして、ほんとうのりょうの融合が、この宇宙を照らした、真実の血の姿を、真実のたましいの姿を…
 「りょう」はわたしの胸のなかに融けていった。わたしはとても幸せな気持ちがした。なにかで心が満たされたように、眼を半開きにして、ベッドの上を見つめた。すばらしい光景だった。校長の身体に優子の身体がめり込んで、まるで人間の内臓を喰らう天使のように見えた。背中にクリスタルビーズの羽根を生やした天使に見えた。
 窓の近くがふんわりと光った。なにか塔のようなものが立っていて、その根元がぼんやりと青白く光っていた。父の顔が浮かんだ。わたしにほほえんでいた。伯母の顔も並んで、ほほえんでいた。あの少女も後ろにいた…ふたりはふりかえり、少女の手をひいて、塔のなかへ消えていった…


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