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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


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 …そして、夏には何かが起こる、悲しいことや、つらいことや、華々しいことが…父の日記にこう書いてあった。
 わたしは父の日記を、あの日から少しずつ読んだ。母が眠ってから自分の部屋で、じっと、頬杖をつきながら、読んだ。
 美しい文章だった。美しい詩が書きつらねてあった。断片的な言葉もあった。意味の不明なものも多かったけれど、何かを感じとろうとすることがわたしの心を熱くした。読み進んでいくと、あることに気づいた。「彼女」「あの人」とは、母のことではないかと。そうすると、父の狂おしいほどの心が、母に向かって流れていく様子が、手にとるように理解できた。そのことははじめから予想していたことではあったが、父の生々しい言葉によって、それがわたしのなかで確信に変った。こんなにも熱い、ほとんど狂っているようにも思える言葉を書く父は、どんな人だったのか…ああ、逢いたい!わたしはそう想った。逢ってその胸に抱かれたいと、その腕に手を回して、墓地を、薔薇園を歩きたいと、そう想った…とつぜん、既視感に襲われた…わたしは、何度も、これと同じ経験をしてきたように感じた。
 夢を見た…わたしと父が、薔薇園の四阿に座っている…母がやってきて、わたしたちのそばに座った。伯母が後ろからわたしの頬を撫でた。母の膝の上にも、もうひとりのわたしが座っていた…フラッシュがたかれた…眼が覚めたわたしは、光に吸い寄せられた蛾のように、震えていた…
 あの写真、全員が姉妹のような写真…これだ。胸のポケットにあった。これは母で、これは伯母で、そして、これは父なのだ。父は女性だったのだ。いや、女性に見えたのだ。伯母ととてもよく似ていた。あまりにも似ていたので姉妹かと思えた。母も似ていた。母も姉妹であるかのようだった。この子は、わたし?もうひとりの子は、だれ?ああ、お母さん…教えてください!
 わたしはそのまま眠ってしまった。
 母の匂いがした。目覚めると、夏の陽は高く、すでに窓枠から去ろうとしていた。
 母のところへ行った。母は、ベッドに横になって、あの写真を眺めていた。
「りょうちゃん、おはよう…これ、いいお写真でしょ」
「ええ…お母さんはどれ?」わたしはベッドに座りながら、そう言って写真を指さした。
「これよ…わかっていたでしょ」母はいたずらっぽく笑って、わたしを引き寄せた。母の真白い髪の、香りがした。
「これはだれ?」わたしは、母の隣の人を指した。
「これは、あなたのお父さま…こっちがあなたの伯母、麗紗さん」
「この子は?」
「この子は…あなた」
「じゃ、この子は?」
「……」母はなにも言わず、わたしをじっと見つめた。何もかも話しても、わたしの心が揺れることはないか、たしかめるように、わたしを見つめた。
「…この子は、この子はあなたの妹…」母の眼からみるみる泪が溢れて、母の首のまえに腕を回していたわたしの手に、落ちた。
 …わたしの妹?妹がいたのだ。でもその妹は?どこに?
 母にたずねることはしなかった。その泪で想像できたからだ。たぶん幼くして亡くなったのだろう。わたしによく似た子は、わたしの妹は、死んでしまったのだ。
「わたしのりょうちゃん…」母は写真を撫でながらそう言った。
 わたしは、母と写真を交互に見た。わたしははじめ、「あや」という名だったと母は以前話してくれた。では写真の子、わたしの妹は「りょう」だったのか。「りょう」が亡くなって、わたしが「りょう」と呼ばれるようになったのだろうか。わたしの名は、消えてしまったのだ。「りょう」という子が、わたしの名前「あや」を持ってあの世へ逝ってしまったのだ…ではわたしは「あや」ではなく、「りょう」なのか…「あや」であったのに「りょう」になってしまったのか…なぜ?…なぜ…
 母はそれ以上なにも語らなかった。わたしも聞かなかった。怖かったのだ。わたしがわたしでないことを知るのが…ああ、やはり、あのお屋敷に行ったのは犯罪に等しい行いだったのか。わたしは、自分の罰を受けるために、また母の罰を重くするために、あそこへ行ってしまったのだ。もう二度と行くまい。過去を知ることはあきらめよう…わたしはそう思って、父のノートと日記を、閉じた。

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