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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


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 庭の木々が芽吹き、想い出を綴ることはやめた。そのかわり、父のことを考えはじめた。
 父はどこに住み、どんな人で、どんな顔をしていて、どのようにあの緻密な絵を描いていたのか、そのすべてを知りたかった。母に聞くことはどうしてもできなかった。母の、父への愛を感ずるとともに、そこに、なにも語れない哀しみがあるような気がしたから。
 その日からわたしは、母の本を一冊ずつめくっていった。なにか父に関する記録がないだろうか、父の痕跡が残っていないだろうかと。でも母はわたしと違って、本に線や落書きをするような人ではなかった。ただ、泪の痕と思われる染み以外は、本のなかになにもなかった。
 母がいつも手にしていた本は、母のベッドのそばのライティングビューローの抽斗に入れてあった。わたしは、母が眠るのを待って、その本をそっととり出し、手にとった。それは箱から出すときに、なにかの香りがした。厚い表紙は赤と黒の模様で縁どられ、なかの濃い緑色の地に、金色の窪み文字で「マルテの手記」と印刷してあった。母がいつも胸に擁いていたせいで、金色の文字はこすれ、濃緑色の地はうすい青になっているところもあった。
 裏表紙をめくると、そこには「灰川 礼」とサインがあった。
 …だれだろう…「灰川」という名は、母に来た手紙のなかに見たことがあったので、父と関係する人の名であることは想像できた。「礼」は母の名と読み方がいっしょなので、母の別名かもしれない…わたしはページをめくっていった…窓の外は風もなく静かで、母の寝息だけが聞こえた…真ん中あたりを過ぎたあたりに、行間に文字が書き入れてあった。ペンで書かれたそれらは、滲んでいて、全部は読めなかった…
「…麗紗ちゃん、道緒ちゃん…大人に…幸せになって…母として失格…わたしの大切な…たくさんの…父親を…お墓に……」断片的な言葉は、わたしの想像をかきたてた。「道緒」は父の名で、「麗紗」はだれだろうか、父の兄妹だろうか…失格?…お墓…
 わたしが本を手にしたまま、ぼんやりと考え込んでいると、母がそっとわたしの手に触れて、ほほえんだ。
「りょう…わたしのりょうちゃん」母はそう言いながら、自分の身体を起こそうとした。わたしは母の背中にクッションを入れて、母のそばに寄り添った。


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