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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


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 わたしは高校を中退し、母が描きためてきた植物画を整理した。最近の母は、描くことはまれだったが、昔、たくさんの薔薇や樹木を描いてきたと、話していた。わたしも何枚かはそれを見たことはあったが、あらためてこの大量の絵を見ると、母の偉大さとその才能の豊かさを感じた。母の植物画は、とてもやさしく、そしてやわらかく、なめらかに紙のなかに絵の具が染み込み、まるで一本一本の植物の精神を描き込んでいるように見えた。
 一枚、そして一枚と見ていくうちに、わたしのなかでなにかが蠢きはじめるような気さえした。そのたびに母のところへ行き、母に寄りかかって、頬を母の肩にすり寄せた。
 そのなかに、母の水彩画とは趣の違う絵が何枚かあった。それを母に示すと、母は、眼をかがやかせて、わたしに言った。
「ああ、お父さまの…」母は手を伸ばして、その絵をわたしから受けとり、わたしをベッドのふちに座らせて、肩を抱き寄せた。 
「りょう…あなたのお父さまの絵…」母はそう言って、絵を愛おしそうに撫でた。
「お父さま?…」
「そう、お父さま…」母は、わたしを透き通るもののように、わたしの背後を見るような眼で、わたしを見つめた。その眼は、かがやきと、苦痛と、よろこびと、哀しみに満ちて、宝石のようだった。
「あなたの名前は…」母は、言葉を少し躊躇した。
「あなたの名前は…あやなの」
「え…あや?」
「そう、はじめはあやと名づけたの…でも、道緒さんが…あなたのお父さまが、今日からりょうと呼ぼうとおっしゃって…それであなたはりょうと呼ばれるようになったの」
 …わたしの記憶のなかでは、わたしの名ははじめから「りょう」だったので、母にそう言われても、「あや」の名は別の人の名前でしかなかった。でも父がそう言って、それにだれもが従ったのだ。父はどんな人だったのだろう。
 わたしが母から聞いた父の事といえば、ただ、やさしい人だったということだけだった。眼に泪を溜めながら話す母の言葉は、苦しげだった。でも、雲が払われたように話した。
「わたしがはじめて、道緒さんの絵を雑誌で見たとき、わたしはとても感動したの…そして、あなたのお父さまに手紙を送ったの、それから、文通するようになって、絵を何枚か送っていただいた…」母は遠くを見つめてそう言った。
「その絵を手にしたとき、わたしはもうこの世界…この植物画の世界から遠ざかることを決心したの…でも、あなたのお父さまは、やさしい方で…あなたが植物画から去るのであれば、わたしも去ります…とおっしゃって、わたしを勇気づけてくださったの…」
 母のほほえみは、綺麗だった。そこにはなんの翳りも、曇りもなかった。ただ乙女のように、無邪気に空に向かってほほえんでいた。
 わたしは幸せなのかもしれない。母に愛された父を持っているから。父を愛した母が、ここにいるから。なにも知らない父だけれど、その絵はきわめて緻密で、でも、やわらかさもあり、もっともっと見てみたいとわたしは思った。
「ほかにも、お父さまの絵はあるの?」わたしは母にたずねた。
「…そうね…お父さまはほとんどの絵を、人にお譲りになったから、わたしの手もとにあるものだけね…ごめんなさいね、りょうちゃん…もっとたくさんあったらよかった…」母はわたしの手を握って、わたしに謝った。
「いいえ、お母さん、この絵を見ることができただけでも、わたし、うれしい…」そう言って、わたしは母の頬にキスをして、母を抱きしめた。

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