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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


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 花の香りというものは、季節と時代を一瞬にして想起させる。自らの歩んだあの時と、あの場面、そしてあの季節の風と光とを。時としてその記憶の残っていないことがあっても、想い出そうとする少しの悩ましさと心地よさは、わたしを遠くへ連れていく鳥のように、わたしの脳を高く飛翔させた。
 あの墓地にある、背の高い樹の花の香りは、私になにかを想い出させようとしているようだった。
 その日もまた、学校の帰りに墓地へ入っていった。門のいばらの棘が、制服のスカーフを引き裂いた。なにか悪い予感がしたけれども、わたしは四阿に行って、本を開いた。その途中にある墓標には、すがれたままの花が、冬の風に揺れていた。四阿を覆う薔薇は、葉を落とした枝に棘を印象的に並べて、絡むすいかずらやクレマティスと同化していた。
 わたしは本を少し読んで、日記がわりにしている手帳をとり出し、母との想い出を…ほんの幼い頃からの想い出を書きはじめた。わたしがくりかえし読んでいる本は、そのほとんどが想い出の記で、読むものさえ、その想い出のなかに摂り込んで夢のような人生を送らせてくれた。そのせいで、わたしも思い出を書きとめようとした。
 ほんの幼い頃の記憶は、だれもが母から、父から聞いて、あたかも記憶しているかのような錯覚を作るものだが、わたしには、この樹の花の香りだけは、実体験の裏づけになった。母はこの樹についてなにも語らないけれども、わたしの頭のなかには、ただひとつの映像が残っていた。それは、母とふたりでこの樹の根元にひざまずき、指を組んで祈りを捧げたことだった。わたし自身が、祈るふたりを樹の上から見下ろしている映像だった。それ以外にその頃の想い出はないけれども、ひとつの記憶は、あたかもその時代のすべての出来事のように膨らんで、わたしの頭のなかに象徴された。
 わたしは数日間、この記憶のことを、同じ言葉で書き綴っていた。いくど書いても、同じ文字なのに同じ意味を持たなかった。それはたぶん、その意味を知らないからであり、その意味を探ろうとするわたしの心が、混乱していたからだろう。
 今日も同じ言葉を、まるで文字の練習のように書き写した。丁寧に。とても丁寧に。寒くて手がかじかんでいたけれど、冬の陽があの樹のむこうに落ちていくのを眺めながら、文字のひとつひとつに記憶の甦りをこめて書いた。ひよどりがけたたましく鳴いて、お屋敷の屋根を越えて飛び去った。
 …静けさが、わたしを母のもとへ連れもどした。わたしは手帳と本をつかんで、家へ急いだ。


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