プロフィール

michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

カテゴリ

小説ブログ 長編小説へ
            人気ブログランキングへ              

リンク

このブログをリンクに追加する

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSリンクの表示

最新トラックバック

最新記事

最新コメント



(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
           
 わたしたちは再びいっしょに暮し始めた。夢のなかを彷徨っていたりょうも、ぐっすり眠るようになった。ようやく平穏な日々がやってくるのだろうか。風もない、波もないおだやかな凪の海のような日々をわたしたちは望んだ。ただ、姉の言った「伯母の遺体をちゃんとしないと、死ねない」という言葉が、わたしも玲も気になっていた。それだからこそ、姉にこの家でいっしょに暮すことを承知させ、姉のベッドをわたしたちの部屋につめ込んで、四人でひとつ部屋に寝ることしたんだ。

 ささやかだけど、楽しい夜だった。やさしく流れる夜をわたしたちは過ごした。マルテもはじめから朗読した。するとりょうはすぐに瞼を重くして、玲の胸のなかで眠った。私たちも眠った。マルテが眠れぬ夜を語りつづける夢を見ながら…

 姉のおかげかもしれない。姉が死なずにこの家に戻ってきてくれたおかげで、わたしたちは波のおだやかな海で過ごすことができている。姉の罪は、十年間苦しんだことと、伯母の遺体を掘りあげ、墓に埋葬したことで、すべてを赦してやってほしい。姉は長い入院と、わたしの看護と、そして、伯母へ心を開くことで罪をつぐなったのだ。もうこれ以上責められることは、わたし自身の消滅を意味しているように思えるから。姉への非難はわたしの同罪をも意味しているのだから。どうかこの手記を読む者よ。姉とわたしを赦してください…

 だが、あなたが、わたしたちを赦したとしても、神が罰の鎖を解き放つはずもなかった。あまりにも大きい借財は人々を麻痺させるように、わたしたちは自らの罪の深さに麻痺していたのだ。深海魚が猛烈な水圧にも耐える身体を進化させていったように、わたしたちも深い罪の底で、何食わぬ顔で息をしていたのだ。そんなわたしたちを、神が赦すはずもなかった… 
 誰かが、夜中にうなされた。それが誰であるか、わたしたちにはわからなかった。わたしたちの誰かであるはずなのに、誰もそのうなされる声の主を特定できなかったのだ。
 ある日の夜半、再びりょうが起き上がった。姉がそれをじっと見ていた。わたしも姉の気配で眼が覚め、ドアの方へ歩くりょうを見つめた。玲は眠っていた。ときどき深いため息をついていた。姉とわたしは、りょうのあとを追った。りょうはちゃんと眼をあけて暗闇を歩いていった。廊下を曲がり、父の部屋の前でわたしたちの方へ向きを変えて、しゃがみ込んだ。わたしたちと視線があったが、彼女には見えていないようだった。廊下の真ん中で彼女は膝を抱えて座り、そして眠った。その姿は、なにかを待っているようにも見えた。また、なにかに身体をあずけているようにも見えた。
 わたしはりょうを抱え、寝室に戻った。玲は眠っていた。わたしと姉も、眠った。

 そういう夜が幾日か続いた。そのうち、玲も起き上がるようになった。平然とした顔でベッドを下り、りょうを連れて廊下を歩いた。ときどき誰かに話しかけていた。言葉はわからなかったが、なにかを尋ねられ、それに答えているようだった。そして父の部屋をノックした。返事はなかった。ふたりはドアの前でうずくまり、眠った。わたしと姉は、ふたりをそのままにして母の部屋へ戻り、向かいあった。
 姉が言った。
 「ねえ、道緒ちゃん…なにかあるわ」
 「そうだね、姉さん」
 「まだ伯母が残っているのかもしれない…」
 「あした、見てみようね」
 「ありがとう…」

 わたしたちは父の部屋の前まで行き、ふたりをそっと寝室へ戻してやった。まばたきをしないほどにふたりの夢は深かった。横になっても両の眼は開いたままだった。
 わたしは姉のことを思い出した。あのときの姉も、眼を見開いたまま寝ていたことを。


comment

ブログ管理人のみ

trackback

trackback_url

http://tensey.blog12.fc2.com/tb.php/182-3272d95e
| HOME |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。