FC2ブログ

プロフィール

michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

カテゴリ

小説ブログ 長編小説へ
            人気ブログランキングへ              

リンク

このブログをリンクに追加する

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSリンクの表示

最新トラックバック

最新記事

最新コメント



(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


 「ライ」がテラスを通って戻ってきた。またハーブに身体をこすりつけて、いい匂いをさせている。ほとんどその眼がどこにあるかわからない顔だったが、舌を出して自分の脚を嘗め出すと、眼の位置、鼻の位置がだいたい見当ついた。
 この猫がどのようにしてこの家にやってきたか、知りたいですか?…そう、
 わたしがある日、家に続く坂道を登ってきたとき、その角を曲がるとわたしの可愛いお家が見える寸前、お屋敷の薮の方で、猫の鳴き声が聞こえたんだ。わたしはお屋敷の正面に回り、壊れた鉄の門を通って、右側に広がる薮を「猫ちゃん…猫ちゃん」と呼びながら、さがした。昔は薔薇園だったという話だったが、薔薇のような木は一本もなく、常緑、落葉さまざまな灌木が生い茂り、簡単にはなかに入り込めないほどの薮になっていた。
 わたしは、薮の切れ目をねらって入っていったが、猫の鳴き声は、近くで聞こえるようで、遠くで鳴いているようで、ちっとも距離感がつかめなかった。そのうち、二十メートルぐらい行った所に、ぽっかりと空いた場所があって、真ん中にぽつんと人の指の先の形をした石があり、その上に、油汚れを拭き取ったような雑巾がおかれてあった。その雑巾が動き出して、わたしの方へ顔と思われるものを向けて、「にゃ…」と鳴いたんだ…ああ、これだったのか、猫は!猫?とても猫には見えないけれども、たしかに鳴き声は猫だったので、猫であることをわたしは素直に信じてやった。その猫のような小さなかたまりは、石の上でじっとして、わたしを見つめていた。わたしを見ても逃げないので、野良猫ではないなと思いながら、少し近づくと、目玉をかっと見開いて、わたしを睨んだ…なんと、片眼がブルーだった。ひどい顔のなかに宝石を埋め込んでいたのだ。わたしは一気に惹かれてしまった。このぼろ布のような猫を連れて帰ろうと思った。そっと手を伸ばすと、なにも抵抗せずに、じっとしている。抱きかかえると、やわらかで、あたたかく、わたしのなすままに、Uの字の逆さに曲がって、わたしの胸に来て抱かれた。
 なんだかとても安心したような表情で…ぐちゃぐちゃの色合いで定かではなかったけれど、なんとなく、安堵した顔をして、わたしの胸に頭をこすりつけてきた。わたしは薮を再びくぐって、この猫をわが家へ連れて帰った。
 とてもおとなしい猫で、まだ子供のようだったが、わたしが鉛筆を垂らしてからかっても、まったくのってこなかった。ただ、青い眼を一瞬見開いて、わたしを見た。わたしもその眼を見たいがために、色々と手を出してみるけれども、その眼を簡単に眺めさせてはくれなかった。すぐに閉じて、自分のなかへ閉じこもっていった。

スポンサーサイト



 わたしはひとり暮らしだったけれど、一匹ほど、変わった顔の猫がいた。「ライ」と呼んでいたが、例えると、黄土色とチョコレート色と黄色と黒と白を顔の上に垂らして、シャンプーしたような、つまり絵の具箱のなかでミキサーにかけたような猫だった。その「ライ」と二人暮らしだったが、前のお屋敷跡にマンションが建つという噂に、少し、いや、正直に言うと、大いに憤っていたのだ。まあ、三階建てぐらいのアパートならまだ許せるけれども、十五階建てのマンションアパートと聞いて、ああ、わたしの理想郷的暮らしも終わりだと、思ったのだ。だってそうでしょ!北側で日照権の問題はないとしても、玄関へ出るたびに、眼の前の十五階建ての壁を見上げて、ため息をしなくちゃならない生活なんて、わたしをどん底に突き落とすもっともいい方法と考えられたから…少なくとも、お屋敷の周りの美しい樹木でもあれば、わたしの眼に入る景観も、マンションの住人にとっても、多少はましだと思えるのに、無残にも、ばっさりと、すべて切られてしまった。でも、きっとこの建設会社には天罰が下るだろうと、わたしはいいほうに考えた。
 あきらめのつかない行為だったけれども、まあ、仕方ないかな、わたしの土地でもないし…わたしの土地だったら、今頃はいにしえのような「薔薇園」にして、町の人に開放し、楽しんでもらっていただろうけれど…わたしごとき、貧乏絵描きがなにを叫んでみたところで、受けとめた大きな矢を、へし折るだけの力もないな、と思って、わたしはそのことはできるだけ考えないようにした。

| HOME |