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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


テンプレ
「わたくしは看護師の、文野(ふみの)ゆきです…これからよろしくお願いいたしますね」…ああやっぱり「あや」の声だ、まちがいなかった。あやは生きていたんだ。ふふふ、あやちゃん!あや!わたしのあや!…わたしも生きている、母も?母も生きている?お母さん?お母さんはどこ?…あなたのお母さまはここよ!「じゃ玲さん、お身体を拭きましょうね」
 部屋の隅で見ていた看護師たちは、帰っていった。車の音が耳に残った。

 わたしはお家に帰り、「文野ゆき」という「あや」にお世話になるのだ。となりに母もいた。ミントブルーの母がいた。見えないけれども、その心臓の音が聞こえた。わたしは手を伸ばした。あった。母の手が、腕が、あった…
「りょうさん、なに?」ミントブルーの「あや」だった。「あや」の腕だった。

 …あや!あや!「あや!」わたしは叫んだ!…
「しっ!」あやがわたしを制して、わたしの耳に言った。
「おかえり、りょう!」…やっぱりあやだった。ほんもののあやだった。いやほんとうは、にせものの「あや」だった。まあ、どっちでもいい。あやが生きていたんだ!…どうして?どうして生きていられたの?…「ふふふ、りょうちゃん、わたしがドジを踏むわけないでしょ!身代わりよ、身代わり!…優子の子供の「ゆき」にわたしの代わりにあの世へ行ってもらったんだ、うまくやったでしょ!ねえ、りょうちゃん、なんとか言ってよ!」
 …わたしはうまく口が聞けないので、手を握りしめて、返事をした。あやちゃんわかった、わかったよ!わたしのかわいいあや!…母が、唸っている、なんだか変な声で。
 母はいったいどうして寝ている?わたしと同じようにベッドに寝ている?…あやが身体を拭くのを途中で置いて、わたしの手を胸の上に組ませていたので、横向きのそのままの姿勢がつらくなったのだろう、唸ったあと、ばたんと仰向けになって、首がわたしの方を向いた…目玉は白く、唇は腫れあがり、白い髪の毛はさらに白く、プラチナのようだった…お母さん…わたしは泣いた、こんな人、お母さんじゃない、お母さんがこんなことになるはずないじゃない、ちがうちがうちがう…母じゃない、別の母がそこにはいた。


 わたしたちの生活は単調なものだった。くる日もくる日も、ベッドの上がわたしたちの世界のすべてで、部屋の壁も、天井も、窓から見える木々も、貼り付けられた壁紙でしかなかった。
 あやだけが、その貼り絵のなかを飛びまわる蝶のようで、わたしたちの生きるすべてだった、生きていく心の力となった。
 あやは、常にわたしたちに献身的だった。そのすべてにおいて心を感じた。こんなにいい子はいなかった。こんなにも可愛い子はいなかった。わたしたちにこんなにも心をこめて、自分の身をささげ、介護してくれる人は、他にはいない…あや、あや!ありがとう…


 ある日、あやがわたしの手を握り、言った…「あなたたちふたりは、心中しようとしたの、お風呂で…たまたまあの刑事が来て、あなたたちふたりを発見して助けてくれたのよ、母もあなたも一命は取り留めたけど、お母さんは、こういう状態、あなたも寝たきり…でもあたし、あなたたちの面倒を見る、だってあたし看護師なんだから…あれから十年も経っているの、りょうちゃん、…そう、十年…あたし、少し顔を変えて、看護師学校へ行って、資格を取って、そうしてここへ戻ってきたの!わかった?りょうちゃん、あなたたちふたりのところへ、戻ってきたのよ!ついに…」

 …ふふふ、そうだったの、あや、すばらしいわ、わたしたち三人で、永久に暮らせるのね、三人で、三人で…お母さんと、わたしと、あやと…でも…

 …でも、こんな姿のわたしは、つらい…母も、つらい?…このまま、この姿のまま、あやの支えのみで、生きていく、わたしは、わたしたちは…

…ふたたびわたしの意識が遠のいていく、どんな喜びも、哀しみも、ベッドの上では、味のないお砂糖に変わってしまう…甘さも、苦さもなくて、ただ、舌の上をざらざらとして、砂のようだった…

 …わたしは、眠った…しずかに…ゆっくりと…深く……

                第二章 終り

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「鵜沓さん、鵜沓りょうさん、起きて!」わたしの大好きな、白い人々がやってきた。またわたしの身体をすみずみまできれいにして!棒のような、わたしの身体!ん?先生だ…先生がいる。白衣のポケットに手をつっこんで、白い人々を監視している…
「鵜沓さん、退院ですよ、さあ起きて!」わたしが退院?じゃ病院にでもいるのだろうか?ああ先生!先生はわたしの先生?ねえ先生、わたしどこか悪いのですか?悪かったのですか、もう退院してもよろしいのですか?…
「さあ、着がえましょうね…かわいいお洋服がとどいていますよ!」
 白いひとりが、わたしを裸にして、服を頭の上からすっぽりとかぶせた。
 …わたし、かわいい?そうかわいいの…ちっとも見えないけれど、ちょっとあなた、じゃまよ、先生が見えない…あ、この白い人たちは、看護師だったんだ、いま気づいたわたし。みんなてきぱきと、わたしの身体も器械も、ベッドも部屋も、なにもかもかたづけた。ほんとうに手際よく…ばいばい、さようなら先生、さようなら白いみなさん…つーとすべっていくわたし。なんだか、気持ちいい…ドアを、廊下を、赤いランプを、人々を追いこして、わたしはすべった。ゲートが開き、箱のなかでストップ…ああ、落ちる!気持ちいい…どこまでも落ちて!ずーと落ちて…落ちて…止まった。ゲートが開き、スカイブルーのまぶしい世界へ放り出されたわたし…いい気分!少し眠ろうね、こんなにいい気持ちなんだから、揺れるベッドのなかで……

 わたしはベッドのまま運ばれた。そして、ベッドのままお家へついた。わたしのお家、白い壁、赤い窓、母の顔…ただいま!帰ったの、「りょう」が帰ったよ…だれもいない、だれひとりいない、お家…そうだ、みんな、みんな死んでしまったのだから、だれもいないね、ちょっと看護師さん、ひどくしないで、そう、ゆっくりね、ここよ、ここ、母のお部屋…
 わたしは母の部屋へベッドのまま入っていった。もうひとつベッドがあった。ミントブルーのシーツがふくらんで、だれか眠っていた。だれ?わたしはたずねた。答えはなかった。おなじミントブルーの医務服を着た看護師が入ってきて、白い看護師と少し言葉を交わして、わたしのそばへやってきた…
「りょうさん、こんにちは…」…なぜか懐かしい気持ちがした。わたしの心のなかに、グジュッと音をたてて、なにか生あたたかいゲル状のものが流れ込んできた。
「これからわたくしが、おふたりのお世話をさせていただきますね」…なんで、なんで、なんで「あや」なの、「あや」がいるの?この声は「あや」じゃない!わたしの眼ではよく顔は見えなかったけれど、声はたしかに「あや」の声だった…あや?あや?あやじゃないの?…
          * *  

 …わたしは目覚めた。ここはどこだろう?見たことのない部屋だった。すべてが白かった。壁もカーテンも、シーツもベッドも、わたし自身も純白だった…ああ、たぶんあの世かもしれない。はじめて見るあの世界。すべてが白く、汚れもなく、穢れもない世界。わたしがあこがれた、この空間は、わたしのものになったのだ、ついに…
「鵜沓さん、起きて!」白い女が立っていた。
「さあ、身体拭きますよ!」そう言ってわたしのシーツをいきおいよく剥がした。そして、わたしの着ているものを手際よく脱がし、身体を拭いた。すみずみまで、耳の穴から、足の指のあいだまでも。わたしはそれをじっと見ていた…わたしを横向きにしたあと、ひっくり返し、背中も拭いた。首も、お尻も、足の裏も…なぜかわたしは女たちのなすがままで、力が身体のなかにひとつも残っていないかのようだった。腕を持ち上げられても、人のもののようだった。背中も、太腿も、足の先も、ほかの人のものだった。なにも感じないし、どの部分も動かせなかった。たぶん脳みそのみ生きていて、身体は死体なのだろうと思った。ただ目玉だけは、白い女たちを追っていた。裏返されてもなお、左右に眼を動かして、状況をつかもうとした。
「はい、おわり!」「綺麗になったわね!」「それじゃまた来ますね」
 女たちはそう口々に言って、あっというまに消えていった。あとには、白い、なお白い空間が残っていた。

 天井を見つめていたわたしは、その白い天井に、真白いがゆえに、だれかの顔、人の姿が浮かんでくるのを待った。白という色は、とても濃厚で、とても暗く、とても破壊的な色なのだ。白の補色が暗黒だということをあなたは知っている?わたしの眼は壊されて、なにも見えなくなっていたのか…暗闇以外の色彩も感じられなくなっていた。けっして眠っているのではない、暗さとその圧迫力をちゃんと感じていたから。
 手で、空を切ろうとしたけれど、わたしの手は、なかった。手も、それに続く腕も、見えなかった。脚も見えないし、身体すらなかった。さっき、白い女たちに拭いてもらっていた身体は、どこ?わたしの可愛い、からだ…
 考えることは、心をつらくするだけだなと思った。だからわたしは、考えることをやめた。思うことも心を冷たくさせるだけだった。だからわたしは、思うこともやめてしまった。残されたのは、ただ、目玉を左右に振るだけ。それはけっして楽しい作業とはいえなかったけれども、いまのわたしには、この暗闇にいるわたしには、唯一存在を示すための行動だった。でもまばたきができないのか、しだいに目玉は乾いていき、左右する動きはだんだんと鈍くなり、軋む音をさせて、止まってしまった…目玉の前に、まん前に、なにかがいた。鼻から出る息がわたしの唇にあたっていた…ご、ごめんなさい、お母さん!ごめんなさい、ゆるして!…だって、母の匂いがしたから、母だと思った…
「りょうちゃん…」ああ、やっぱり母だ、母の声だ、懐かしいお母さんの…
「りょうちゃん…起きて」わたしの身体をゆすった…ああ、血が流れる、身体中に熱い血が流れ下っていく、指先も、胸の中心も、足の先までも、血がしびれるように、めぐっていった。
「りょうちゃん、おはよう…」

 眼を開けると、あやがいた。わたしのベッドの横に立って、わたしの顔をのぞき込んでいた。これは幻だった、きっと幻なのだと思った。そうでないのなら、わたしは、いや、わたしたちは、天国で再会したのだ。きっとそうだ。天国、あの世、あの世界、わたしがあこがれた、父も母も、伯母も、あやもいる、あの世界…
「ちょっと、りょうちゃん!」パシッと、あやがわたしの頬をぶった…もういちどぶった…あら、あやじゃない。わたしはほほえんだ。
「あやちゃん?」…ふふふ、あやじゃないの?
「なに言ってるの、りょう、早く起きなさいよ!学校遅れるよ!」
「学校?…」わたしは依然として、だれかにだまされているのだ、きっと。時がもとに戻るはずはなかった。あの時に、あの時のわたしに。
「お母さんは?…」わたしはためしに、あやにたずねた。
「お母さん?なに言ってるのよ!…お母さん!」あやはキッチンに向かって叫んだ。
「なに、あやちゃん…りょうちゃん、起きた?」…母だ、間違いなく母だ!わたしのお母さん!…ああ、お母さん、抱きしめて、わたしを抱きしめて!
 わたしは母を抱きしめた、しびれたままの腕で、強く、抱きしめた、あたたかい…ほとんど炎のようにあたたかい!…そして、次の瞬間、母は見事に砕け散った。焼けすぎた魚かなにかのように、粉々に、いやな臭いを残して、砕け散った。
「ほら、あや?お母さんて、こんなものよ!」…わたしのお母さんて!
 …もうだれもいなかった、真白い部屋のまま、わたしはひとりぽつんと、そこに存在していた…

 …わたしはふたたび、目覚めた…
私の身体が、水に浸かっているのがわかった。腰ぐらいまで、水に浸かっていた。水がときどき、きらきらしている。私のスカートの裾が、水のふちで揺らめいていた。制服のスカーフが近くに落ちて、沈んでいた。わたしはそれを水のなかから拾いあげ、眼のまえにぶらさげた。紺色がさらに濃くなって、ほとんど黒に見えた。
 わたしは思い出した。お屋敷が燃え落ちるのをここで見ていたことを。美しい燃え方だった。空は一面の火の粉に被われて、炎の動きとともに、右に左に振りまかれ、倒れる柱や壁や、無数に舞う瓦が、滝のような水とともに降り落ちてくるのを見ていた。けっしてそれは幻ではなかった。わたしの身体に降りかかるそれらの痛みを、わたしは覚えていたから。水が跳ねて、眼に飛び込むけれど、まばたきもできずに見ていたから。そのうちに、人々がやってきて、わたしの身体を頭と足をつかんで持ち上げ、うすいベッドに載せた。わたしにはすべてが黒く見えたけれども、すべての状況がわかった。わたしの手も胸も脚も、冷たく硬くなっていたけれども、すべての感覚は、たましいのなかにあった…
 ああ、りょう!…ここよ、りょうちゃん!わたしはここにいるよ…ここに、いる…
 暗闇とはほんとうは、すべてを含む深い海なのだと、わたしはさとった…

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