FC2ブログ

プロフィール

michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

カテゴリ

小説ブログ 長編小説へ
            人気ブログランキングへ              

リンク

このブログをリンクに追加する

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSリンクの表示

最新トラックバック

最新記事

最新コメント



(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


 わたしたちが死んだように家のなかに存在していた、ある日、あの刑事が来て、性別、血液型、DNA、すべて「あや」と一致したことを告げた。わたしと母は、もう驚きも悲しみもしなかった。それはまったく意味をなさなかった。感情はなにもわたしたちに解決の道を示さないことを悟ったのだ。無表情で刑事の話を聞くわたしたちは、まるでテレビの向こうで話している人の言葉を聞くように、冷えきっていた。
 刑事はわたしたちに哀れみの視線を送ると、静かに去って行った。
 ふたりは、何事もなかったように、死体のように動かなかった。

 眠ると、あやの顔が浮かんだ。わたしたちに助けを求めていた。黒い顔は泪のすじを鮮明に浮き立たせていた…毎夜、いくどもいくども、あやがわたしのなかに現れた…ああ、あや!

 数日して、少しわたしの、母の手を握る力が戻ってきた。母も握り返した。このままではいけない、あやのためになにかしよう、そうわたしたちは感じた。
 あの刑事に、どのようにしたらよいかを電話で尋ねた。
 明日、遺体を戻すので、葬儀社に電話して、詳しく尋ねなさいと、言ってくれた。わたしは、葬儀社に電話して、なにをどうしたらよいか、聞いた。
 いちばん広い部屋の壁際をかたづけて、祭壇を作る場所を空けた。形だけの葬儀かも知れないけれど、あやのためにできるだけのことはしないといけないと思った。可哀相なあやを、ちゃんと最後まで見送ってやろうと思った。わたしたちのために、わたしと母のために、犠牲になったあやを、天国に送ってやらねばと…

 葬儀にはだれひとりの弔問もなかった。最後になって、あの刑事がぽつんとやってきて、線香を一本立てて、帰っていった。刑事としても、もっと早くあのお屋敷を徹底的に家捜ししていれば、こんな悲惨な結末にならなくてすんだと、思ったのだろうか…でも、わたしと母がいれば十分だった。わたしたちは三つの輪のように重なっては離れ、離れては重なる繋がったリングなのだから…

スポンサーサイト



 わたしたちは家へ入った。けたたましくサイレンを鳴らして、消防車が来た。何台も何台も。永遠にそのサイレンは続くかと思われた。わたしは耳を塞いで、母と並んで床に座り込んでいた。早くこの嵐が過ぎ去るのを願う、震える小鳥のように…

 刑事がふたたびやってきた。燃えあとから遺体が出たので見てくれるよう、母に言いに来たのだ。
 母はとても歩ける状態ではなかったので、わたしが行くことにした。まだわたしは歩けたから。
 刑事のあとについてお屋敷の門を入った。玄関横の草の上に銀色のシートがかけられた遺体が…あやが!横たわっていた。わたしは刑事に腕をつかまれ、引かれるようにしてそれに近づいた。別の刑事がシートを無雑作にめくった。なかから真っ黒い棒が出てきた。これが焼けた死体なのだ…あや!わたしはその場に倒れた。跡形もない黒い物体をわたしたちに見せて、なにをさせようとしているのか、わたしにはわからなかった…たぶん、これを見せることによって「お前たちが今まで何をやってきたのか」その犯罪的行為を悔悟させるためだったのだ。わたしは遠のく意識のなかで、神に謝った。あやに謝った。母に、すべての人に、許しを請うた…

 わたしたちは一日おきにあやのところへ行った、あやはしだいに衰弱していった。なにもしゃべらなかった。ただ手で大丈夫だからと言って見せるだけだった。

 食料もたくさん持って行った。でもほとんどあやは食べていないようだった…この穴はなんの穴だろう…棚があって、今そこには、あやのための食べ物や、着替えが並べてあった。電灯を布で蔽って、みんなの顔を寄せあった。あやはひどい姿をしていた。まるでコールタールのなかを這って来たようだった。顔にも黒い染みがいくつもあり、かさぶたのように貼りついていた…早くここから出さねば、わたしは母に言った。しかし母は首を横に振った…きのうも刑事が昼間うろついていたの、母がそう言うのを聞いて、わたしはあやの手を強く握った。
「いたいよ!りょう」あやが言った。わたしは、ごめん、と言って、あやを抱いた。まだ大丈夫、そんな気がした。

 それから数日が過ぎた。わたしたちが望んだ台風が来た。その晩も、母とわたしは出かける支度をした。外では風が木々の枝を曲げて、不気味な音を立てていた。こういう日はまさか誰も、刑事なんて誰もいないだろうと思った。でもいたのだ。わたしたちがテラスから外に、まさに出ようとしたとき…
「どこに行くんですか、こんな遅くに!」あの刑事が庭に立っていた。
 わたしは心臓が止まりそうだった。母も一瞬驚いた顔をしたが、すぐに冷静さを取り戻し…
「いえ、外でなにか大きな音がしましたので、なにかと思って…このハーブの鉢でも倒れたかと…」
「ふふん、そうですか、毎晩のようにどこかお出かけだったじゃないですか…今、屋敷を捜索させています…いいですか奥さん、わたしたちの眼は節穴じゃないですぞ!」まるであの校長のような口調だった。わたしはそこに座り込んでしまった…もうだめだ、あやは捕まってしまう、ごめんね、あや!…ずっとわたしたちを見張っていたんだ…わたしは悔しかった。あんな犯罪者を放って置きながら、その犯罪者を自ら裁いた人間を捕まえようなんて…
「奥さん!話を聞かせてもらいますよ…」刑事が一歩わたしたちに迫った。その時だった。風の音が急に強まって、轟音に変ったかと思うと、バチバチバチと大きな音がして、人の叫び声がとぎれとぎれに聞こえてきた。刑事は何事かとすぐにお屋敷の方へとってかえし、わたしたちもあとへ続いた。玄関まで来ると、お屋敷の上空が赤く染まっていた。炎だ!赤い炎がたけり狂ったように燃え上がり、黒い煙に変って吹き飛ばされていった。火の粉が無数に散り、風に舞う木の葉と混じって、不思議な流れを作っていた。風の方向が変るたびに、炎と煙と火の粉が、まるで踊っているようにお屋敷を包んでいた。それは美しかった。この世のものではない大きさと、色と、炎と、暗黒と、大気の流れによって創られたアートのようだった。
 母がくずおれた。わたしはずっと炎を見続けた。ますますそれは巨大になって天に昇っていった。お屋敷の屋根のはるか上空まで立ち昇り、左右に揺れては、一瞬暗闇を作り、また立ち昇っては、横に倒れた…
 あや!わたしは叫んだ、声が出ない…あや!もういちど叫んだ…母は顔を覆っていた。どんなに悔いていたか。今夜こそは、あやをあのお屋敷から出そうと言っていた母…ああ、もう一日早かったら、わたしもそう思った…わたしのあや…可愛いあや…わたしも悔しかった。どんなに叫んでも、もうあやには届かない…わたしたちは間違っていたのか、犯罪者と同じことをしていたのか、いや、犯罪者よりももっと重罪を犯していたのか!
 母の肩を抱いた。風と雨がわたしたちふたりを打った。まるで鞭のように、罪を悔いることを強いる罰のように…

| HOME |