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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


 夏は飛ぶように過ぎ去った。あやはもうすぐ自分の家に帰ってしまうのか…わたしは淋しかった。あと数日間、あやと十分に楽しもうと思った。
 幽霊屋敷は、夏が終りを告げるとともに冷めていくものだ。また普通の暗いお屋敷と、「墓地」に戻った。わたしたちはまたあの四阿で、夏の終わりの日々を過ごした。
 わたしはあやに、父のノートと日記を見せた。あやははじめ興味深そうに見ていたが、すぐに飽きて、本に読み耽った。ある詩人の小説だったが、あまりにも狂っていたので、あやにやったものだった。あやは…知ってる、と言ったが、それを夢中になって読んでいた。お屋敷の木々を渡る風は気持ちよく、四季咲きのすいかずらが、いく輪か咲いて香っていた。

「あの上にいたの、あたしなの」とつぜんあやが言った。
「え?…」わたしはなんのことか、わからなかった。
「あのシャンデリアの上に、いたの、あたしなの…」
 わたしは記憶の糸をたぐった…ああ、あの場面、あの光景、いまでは遠い過去のように、思える…でもなぜ…あれは幻想だったはずだ。わたしの作りあげた幻だったのではないか?…「事件」はたしかに起こった。でもその過程は、わたしが虚構したシナリオだったはずだ…
「りょう!あなた、あたしを忘れたの?」
「え?…あれは…」わたしは、あやがなにを言いたいのか、理解できなかった。あやがなにを言おうとしているのか…
「りょう、あれはあたしがやったのよ…」あやは静かに語りはじめた。
「…あいつらを殺ったのは、あたしなの。おぼえているでしょ、りょう。あのふたりがなにをたくらんでいたか…あたしも知っていたのよ…あたしの父はあの校長の弟なの。うちにやって来ては、灰川の悪口を言っていた。父は嫌っていたけど、あの男のおかげで食っていたから、なにも言えなかったの。あたしが灰川からの養子だってことも知っていて、わざとあの男、大声でわめいていたわ。時々あの女もいっしょに来て、お酒飲んでさわいで帰るの。下品なやつらよ!…」あやは言葉を切って、本をぱたんと閉めた。
「あるとき、わたしが学校を休んで家にいるの知らないで、父とあの男と娘の優子とでこそこそ話してるの、聞いたのよあたし。ぜんぶ聞いた…灰川の跡取りは、りょう、あなたで、あのお屋敷はあなたの名義になっているって。あたしは養子に出たから相続権はないと…あのお屋敷は、あなたの…母が管理していて、それをぶんどる計画だったのよ…」
 あやはそう言って、わたしの肩に手を置いて、うなづいた。短い髪が風に揺れて、可愛い耳が見えた。
「りょう、あなたがしっかりしなくちゃいけないの!…お母さんはあなたが守って、そして、灰川の家を継がなくちゃいけないのよ…あたしは、いずれ佐々木を出て、鵜沓を名乗るわ。鵜沓もあとがいなくて、あたしが継ぐの…いい、りょうちゃん、驚かないで…あの優子はあたしたちの伯母なの」
 わたしは耳を疑った。そんなはずはなかった…いや、そんなことは、だれも認めない…でも、母と似ていると、いくども思っていたじゃないか、そうだ、思い出した、あいつは母に似ていたんだ…
「あの優子は、校長が学生の時、あたしたちの祖母、鵜沓涼子に産ませた子だったのよ。そのあと、祖母が灰川の愛人になったのをいいことに、優子を餌に金をせびったのよ…りょう、聞いてる?」
 わたしは頭が混乱してきた。どういうことか、よく理解できなかった。それでもあやは、話を続けた。
「だから、あたしたちのお母さんと優子は異父姉妹なの」
「異父姉妹?…」
「そう、母は灰川の子でしょ、優子は校長の子なのよ」
 わたしはなんだか気分が悪くなってきた。西日のせいもあったけれど、日陰に入りたかった。
 わたしとあやはお屋敷に入った。そしてあの美しい部屋へ行った。いつもこの部屋に入ると落ち着いた。母が以前眠っていたベッドにふたりで座り、手をからませて、いっときのま、沈黙していた。
「あのね、りょうちゃん、あたしこう思うの、あたしたち、母や、父や、その母も…みんな生まれてはいけないところへ生まれ落ちたの…その錆びた鎖を…もっとはっきり言うと、腐った血を、断ち切るんだったら、あなたがしっかりしないといけないの。けっして血縁と縁を結ばずに…わかる?新しい血で灰川をつないでいかないといけないの」
 あやの顔が、父の、いや伯母の顔に見えた。伯母の顔に変わっていた。あの写真のなかの…わたしは、あの写真を胸のポケットから取り出した。いくどもひろげたり閉じたりしたので、折り目が切れかかっていた。それをあやに見せた。あやは手のひらにゆっくりとひろげて、言った。
「この双子は、あなたたちじゃないのよ…これがわたし…わたしとあなたたちのお父さんとのあいだに生まれた双子なの…この写真を撮ったすぐあとに、死んでしまった…」
 …あやは、まるで伯母の「麗紗」のようにしゃべった。写真の麗紗と同じ顔だった。そして、その指に嵌められた指輪は、写真に写る「麗紗」の指輪と、同じものだった。
 「伯母」はわたしたちをやさしく抱いてくれた。そして、ふたりして、眠った…

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 わたしの部屋へ戻ると、あやの口を開けて、なかをのぞいた…よかった、舌は無事だった。ちゃんと残っていた。無傷だった。でも上唇が縦に裂けていた。可哀相に。トカゲの背びれが口から飛び出るときに引っかかったのだ。血が垂れていた。わたしはあやの顔の血を拭いてやり、唇を消毒して絆創膏を貼ってやった。髪の毛!髪はわたしが綺麗にそろえて切ってやった。ショートもあやは似合った。可愛いと思った。ただ、顔のゆがみは戻らなかった。ふたりしてベッドで抱きあって眠った。あやの身体は小さく震えていた。いつまでも震えていた…

 目覚めたとき、朝はもう遠く過ぎていた。母がドアからのぞいた。いくどものぞいたに違いない。母はわたしたちに声をかけた。
「わたしの可愛い双子ちゃん…起きて」小さい声でそういうと、またドアを閉めてキッチンへ戻った。
 わたしは起きて、マスクをさがした。そうだ、このあやの顔では、母の前に出られない。マスクをつけさせよう…大きな不織布のマスクが出てきた。あやを起こしてその耳にマスクをかけた。眼だけが出て、その美しさが際立った。あやはしゃべれなかった。わたしの言葉にうなずくだけだった。ああ、とりかえしのつかないことをしてしまった。わたしたちは、いや、わたしは馬鹿だった。あの馬鹿猿たちよりももっと馬鹿だった。自分で掘った穴に落ちたようなものだった。あやを巻き込んでしまった。母に知れたら?あやの両親に知れたら?わたしは頭を抱えた。頭を抱えて、しゃがみ込んだ…あやがわたしの肩を叩いた。そして親指でドアの方を指差した。母のところへ行こうというのだ。わたしは仕方なくあやの後に続いた。
 キッチンにも、ダイニングにも母の姿はなかった。朝食はそろえて置いてあった。もう自分の部屋へ行ったのだ。わたしは胸をなでおろした。あやとふたりで朝食にがっついた。男か、けだもののように喰った。お腹がすいていたのだ。あやは片耳にマスクをかけたまま、トーストに喰らいついていた。その食べかたったら…可笑しかった。ふたりして笑った。ふたりとも声を立てずに笑った。大声で、沈黙のまま、笑った。

 母には、あやがちょっと風邪気味で、喉をやられたと言っておいた。母は、素直に信じて…でも髪は?そう言って、あやを自分の身体に引き寄せて、その短い髪の毛を撫でた。
「あたしが切ったの!…あやが暑苦しいって…」
 母はほほえんで…よく似合うわ、と言ってくれた。ほんとうにやさしい!わたしのお母さん!あやのお母さん!わたしもあやとともに母に抱きついて…泪が出た…

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