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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
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photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


 
    『薔薇園』     鵜沓 綾/うくつ りょう

 いつもその角を曲がると見えてくる、わたしのお家(うち)。母とわたしが十数年間暮らした家。こじんまりとして、可愛い屋根と、白い壁に赤い窓が開いていて、母がわたしにほほえむと、わたしは手をふって答えた…いつも、母の真白い髪の毛は、午後のくすんだ光のなかで、銀色に見えた。
 わたしの家の向かいには、立派な石柱の門のある墓地があり、その墓地のまわりは、背の高い木が囲んで、外界とは閉ざされた感じを受けた。門の鉄の扉も、薮で覆われていて、なかへ入るのにはとても苦労した。
 母には内緒で、わたしは時々その墓地を探検していたのだ。門を覆っているいばらをくぐって…ときには、腕や制服のスカートや、脚を引っ掻かれながら、棘のあいだをくぐり、なかへ入った。そこは別世界だった。古いお屋敷があって、その玄関までゆるくカーヴを描く道がつけられて、今は、その面影だけが残っていたのだけれども、わたしにはそのゆるやかなカーヴが見えた。門から少し行くと、右と左へ行く小道があり、ぐるりと墓地とお屋敷をめぐるように造られていた。ほとんどそれらの道は、残影のようでしかなかったが、わたしはこの道を以前から知っているような気がした。
 お屋敷は印象が暗いので、あまり近寄らなかったが、墓地は隅々まで探検していた。わたしがここを「墓地」と呼ぶのは、薔薇や小灌木のあいだに墓標のような石がいくつかあって、時々お花が供えられていたからだった。まったく人の気配はないし、だれともここで出遭ったこともないけれども、「墓地」にある薔薇の花や、道端の小さな草花の束が石のそばに添えられていたりした。

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                *   *


















        
 姉が叫んだ。
「さあ、ふたりとも起きて!」
 わたしと玲は、夢のなかでつながっていた。姉は容赦なくわたしたちを揺り動かして、ほっぺたをたたいた。
「わかったわよ!首のありかが」
 わたしは呆然と姉を見つめた。玲はベッドの上で、学校から戻ったりょうを抱きしめていた。姉の勢いに圧倒されながら、わたしと玲は、りょうを寝室に置いて、庭へ出た。姉が裏からはしごを持ってきた。そして門のすぐ横にあるオガタマノキに立てかけた。さあ、と姉の眼がわたしたちに呼びかける。わたしと玲は上を見上げて、まだよく呑み込めていなかった。
「姉さん…ここに?」
「そうよ、伯母さんがこの木のむろに、あいつの首を入れたのよ!」
 姉は伯母の日記を読むうちに、伯母が敵ではなく、父が敵であることを悟ったのだ。「あの女」と呼んでいた伯母の事を「伯母さん」と呼んだ。
「さあ、だれが行く?」姉はわたしの顔を見る。
 頭痛でくしゃくしゃの顔をしているわたしを見たあと、哀れなものでも見たように、眼をそむけた。玲を見る…
「じゃ、わたしが行く!」
 姉はそう自分で言って、はしごを登りはじめた。長いスカートが6月の風にひるがえった。むろははしごの途中から上にいくつかあり、ちいさなものを入れると、無数の穴が幹にはあった。そのすべてが、穴に向かってすべらかに樹皮が流れ込み、人の口のように見えた。姉は大きいむろのなかをひとつずつさぐった。小石がいっぱいつまっているものもあった。姉はその小石をひとつ、懐かしそうに眺めて、下に放り投げた。姉はオガタマノキの枝をつかんで、はしごの一番上の段に立った。姉の眼の前には、この木のもっとも大きなむろが黒い闇を作っていた。姉が片手を穴のなかに伸ばした。なにかあったのだ。次の瞬間、姉の手には綺麗な真白い頭蓋骨が乗っていた。玲はほとんど放心状態だったが、この頭蓋骨を見て、笑い出した…
「お母さま…」自分の母親に見えたのか。それとも母を思い出したのか…
哀れだった。わたしは玲を抱きしめた…ぜったいにおまえを離さない…わたしはそう心に誓った。
 姉がはしごを降りてきた。そして庭石のある庭の真ん中へ、頭蓋骨をささげて、真っすぐ歩いていった。そしてそれを高く頭の上に持ち上げ、石に叩きつけた。
 頭蓋骨はばらばらになり、姉の周りに飛び散った。風が吹き、骨の白粉を空へ運び去った。


 わたしと姉と、玲とりょうは、この家で暮した。いつものように、朝が過ぎ、冬の午後の風が吹き始めると、オガタマノキの花の香りを運んできた。
 わたしたちは幸せだった。わたしの頭痛も去り、姉も笑うようになり、玲も自らの宿命を受け入れ、りょうは、可愛いりょうは、わたしたちの天使は、冬の薔薇園をかけまわっていた…


 『後述』
 わたしが「墓碑銘」を書き始めたのは、ある夏の終り、薔薇園で母と出逢ったからだ。その母のためになにかしてあげたいと思った。そして、詩を綴った。母は美しい笑顔でわたしたちに微笑みかけた。わたしが姉に「ほらお母さんだ…」と声をかけると、姉も「ああ、お母さん…」と手を差しのべた。玲もりょうも、それを微笑んで見ていた。みんな母が見えたのだ。「ラ・セデュイザーント」の薔薇の木の上に母は座って、わたしたちに両手をひろげた。わたしたちも両手で答えた。しずかに、母は薔薇の精のように、幻となって、消えていった…



                                             (終り)
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