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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


          
 …しかし、わたしの頭痛のもとを探らねばならなかった。
 父の首のありかを見つけなければならないのだ。わたしの頭痛は、父の首の呪いから来ているにちがいなかった。早く見つけてくれという、父の訴えだったのだ。
 …玲はわたしのそばに横たわり、泪を枯らして、眠った。わたしは玲の頭を抱いてやった。
 姉はひとり、日記を読み進めた…もういいではないかと、わたしは思った。わたしの頭痛なんて、玲の苦悩に比べたら、取るに足らないものなんだ。玲は死んでしまうかもしれない。わたしたちと異母兄妹だった自分を、呪ったに違いない。わたしと出逢ったことを悔いたに違いない。わたしは、彼女との出逢いを消し去りたいなんて思わないけれど、あってはならないことの現実と、変えようのない宿命と、仕組まれた運命の呪いの間に揺れた。
 わたしはとうとう眼の奥の痛みが前頭葉に達し、ベッドの柱に頭を打ちつけ始めた。柱のくりぬかれた葡萄の葉の溝に血が垂れた。そして、一粒一粒の葡萄の実を赤く染めていった。
 姉がわたしをベッドに縛った。玲もともに縛った。ふたりは同じ荷物のように密着して、ベッドに横たわった。姉はあくまで冷静だった。もう感情のない装置のように事を処理していた。再び日記を調べ始めた。
 
 …伯母は、母の苦悩を聞き、そして苦しみを分かち合った。わが娘に代わって弟を葬ることを考え始めた。もちろん母には黙って計画を進めた。赴任先で愛人とともに心中に見せかけて殺すのがいいと考えた。そのために、弟の赴任先の近くに家を借り、あらゆる薬物を自分の身体で試した。農薬も、睡眠薬も、ヒ素ですらどこかで手に入れていた。しかし弟は用心深かった。伯母の気配を感じていたのだ。二卵性とはいえ、双子の姉弟は、お互いの行動根拠が同じであることを無意識のうちに感じているのだ。父は食事の時、飼っている小動物にそれを食べさせながら自分も食べた。食事を作る愛人の鵜沓涼子さえ、信用していなかった。誰かに買収されることなんて、よくあることだし、簡単だからな!自分の居場所なんて、永遠にそこにあるわけじゃないし、いつ誰が自分を蹴落としにかかるかわからないからな!自我欲に固まったやつらが、なにかの気味悪い幼虫のようにそこらじゅうに蠢いて、わたしのはらわたを狙ってるんだ!
 伯母は断念した。自分の存在を感じている弟を感じた。母のもとへ帰って来た。母は伯母のやつれた顔を見て心配した。夫の赴任先で何をしていたのか、うっすらと感じていた。でも母は誰にでもやさしかった。伯母をいたわり、母のように愛した。実の母を…
 またふたたび薔薇の季節がめぐり、父が戻ってきた。
 わたしたちは父の儀式の道具にされ、母は吊るされ続けた。父は薔薇を部屋に飾り、香りを部屋に満たして『かもめ』を自ら演じながら、母を回転させた。伯母はその光景を窓のカーテンのすき間から覗いていた。母は尿を漏らした。伯母は決心した、今夜殺ろうと。弟を殺そうと。もうだめだった、耐えられなかった。そっと台所に入り、弟が夜眠る前に呑むカルヴァドスに、大量の睡眠薬を混ぜた。そして夜半、ふたたび灰川家に忍びより、弟の部屋を覗いた。弟は眠っていた。しかしそばに母が立っていた、自分の娘が。豚を解体するような大きな包丁を振り揚げたまま立っていた。弱くしたシャンデリアの光にそれが鏡のように光った。その光が下へ移動し始めた。ゆっくりのようにも見えたが、光が連なって、そう感じたのだ。弧を描いて父の首は飛び、噴水のように血が噴き出した。壁に、天井に、そして母に…父が跳ね起きた、首のない身体のままで。そして手を顔にあてて、叫んだ。叫んでいるように見えた。そのままくずおれて、ベッドに横たわった。
 …母は赤黒いヴェルヴェットドレスに身を包み、顔は黒く、表情のない処刑台のように見えた。包丁はすでに光るのをやめていた。伯母は硬直して動けなかった。声も出なかった。すべてが自らの責任のような気がした。なぜもっと早く自分が弟を殺さなかったかと、この狂った家から娘を抜け出さなかったのかと。
 伯母は卒倒してその場に倒れた。気づくと、東の空が白みかけていた。身体を朝の薔薇園の香りが包んでいた。急いで母の部屋へ向かった。伯母の眼に刺さったのは、さらに苦痛の針のようだった。母が首を吊って死んでいた。自分も母と並んで死を選ぼうとしたが、暖炉の上のわたしたちの写真が眼に入り、思いとどまったのだ。母の足元に落ちていた『マルテ』を拾いあげて、本棚にしまった。警察を呼び、事情を話し、刑事とともにわたしたちの部屋へやってきたのだ。レベルの低いこの地の警察は、母がどこかに埋めた父の首を見つけられず、間抜けな警察犬とともに帰って行った…
 伯母はそう書いていたが、実際には、薔薇園の強烈な香りが強すぎて、犬の鼻を惑わしたのだ。バークの敷きつめてある薔薇園では、掘り返した場所を探すことも困難だった。
 伯母は、弟と娘の、誰ひとり弔問のない葬儀をすませ、あの首をふたたび掘り出して、ある場所へ隠した。伯母は『マルテ』の中に書かれてあった首のありかを知っていたのだ。『マルテ』は本棚の奥へ隠した。
 …伯母は書いていた。弟の首を掘り出すと、半分腐りかけ、目玉は飛び出していて、口は変なゆがみ方をして笑っていたと。そしてそれを園丁が使っている長い脚立で、この庭の唯一の常緑樹である「オガタマノキ」のむろに納めたと。
 このあたりはかつてお寺の伽藍があり、常緑樹が多く植えられていたが、灰川家がここに移り住んだ時に、このオガタマノキ一本を残してすべて切り倒したのだ。この木は樹齢数百年の大木で、いくつかむろがあり、わたしと姉はよくそのむろに向かって小石を投げて遊んでいた。母はそれを見ると、この木は死んだ人たちのたましいが宿る木だから、そういうことをしてはいけませんよと、やさしく叱った。その木に伯母は父の首を隠したのだ。隠したと言うよりも、罪をつぐなわせようとしたのかもしれない。鳥につつかせて、そのたましいに贖罪を求めたのかもしれない。わたしたちの生活は、楽しく、つらいものになった。伯母は母以外に子供もなく、子供を育てたこともなく、まして思春期にさしかかる双子の面倒を見るのは、重荷だったのかもしれない。日記にはその愚痴が多くなっていた。とくにすべてに反抗の態度をとる姉には手を焼いたのだ。その結果、自分が子供の時されたように、姉をしつけようとした。しかし、伯母は姉に殺されてしまい、その日記も中断せざるを得なかったのだ…
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