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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


          
 ティーカップにトマトジュースを満たして、月を映してみた…ぼくのどんよりした心を伝えるように、動かず、モノクロの月を滲ませた…
 なぜ?…あなたのことがこんなにも好きなのか…あなたのことが頭から離れない、ぼくは…傷ついたレコードのようにいくどもあなたの名をくりかえす。
 (生きてゆくなかでのさまざまの出会いのシーンの、もっとも不思議で、魅惑にみちた、劇的な出逢い…)
 あなたは、ぼくの生きてゆくなかでのもっとも遠い人だけれども、もっともぼく自身に近い人…(あなたはぼくのなかに住み込んでしまったから…)ぼくはあなたの声を聞く日を待っているんだ。
 (この苦しい想いのなかのさまざまの光は、とても不思議な色をして、奇妙に点滅しながら、ぼくの身悶えを甘くつつむ…)
 (あなたが、あまりにも強くぼくのなかに侵入したので、ぼくは窓を開けるまもなく、暗闇に震えながら、あなたを見ようとした…)
 この情景のなかでは、あなたはすでにディレクターなんだ。ぼくは引きずられて、ぼろぼろになる日を待っている…
 (最後の薔薇…)
 なぜ?…あなたのことがこんなにも忘れられないなんて、ぼくは。なぜだろう?…ひとときもぼくは、あなたを離せない…この夜の虫たちのように、いくどもあなたの名をくりかえすから。
 (この月日のなかで、輝くぼくと、くすんだぼくと、さまざまなシーンがくりかえされて、不思議のあなたを、魅惑にみちたあなたを、ぼくの心の紙片に焼きつけた。)
 ぼくは、あなたに出逢う日を、待っている…
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       九月三日 夜
 ぼくのことばのちからがどれほどにあなたを揺れる炎とするか…(あなたのことばの舌がぼくの心を触れて、溶かしてしまったのに?)月の光に似たあなたは、ぼくを海の底に沈めてしまった。ひとすじの白い泡の列は、ぼくのため息が栗の花となって、永くあなたのくちびるへ伸びる糸…(あなたの心の片隅に、ぼくはいるだろうか?)あなたがくれた、心のかけらをつなぎあわせてみるけれど…ぼくはしだいに、溺れてゆく…そして、今ぼくは最後の気力で、あなたにたくさんの希望をたくした…あなたがぼくのあたえたことばのちからに押しつぶされますように!
 薔薇の実をふたつに切るように、ぼくは心を裂いて、あなたに見せた。美しいそれは、まるで石榴に変わってゆくのに、あなたは、あなたはただ横顔を見せる…
 …あなたの名を、ぼくは、忘れてしまった。あなたがあまりにもぼくのなかに充満して、あらゆる記憶は、すべての気孔から滲み出て、消えた…そして、あなたの月の光の肌が、ぼくのひとつひとつの心を被った…雪のように…
 ぼくは今、己の心のありかを知りたい…ひっそりと、静まりかえった夜、月明かりの投影するこの部屋で、ぼくは…心のありかをさぐった…(あなたの心の片隅に、ぼくは忍び込んだだろうか?)あなたがくれた、香りのはぎれをつなぎあわせてみるけれど、ぼくは…しだいに…眠ってゆく…あなたの腕が振り下ろされて、ぼくの魂がよみがえるまで……
          
 わたしはふたたび、母のベッドに縛りつけられた。姉は本を並べながら、ぱらぱらとめくっていた。なにかに眼が止まった。じっと見ている。目玉が上から下へ往復している。そして天を仰いだ。

 姉は玲を呼んだ。ふたりでその本を見ている…今さら重要なことでもあるまい、ぼくは全部の本を読んでいるんだからな…でもあまりにも熱心だ。真剣すぎる。
「ねえなにか面白いことでもあるの?」わたしは頭痛のあいまが退屈だった。ふたりだけで面白い文章を呼んでいるのが癪にさわった。
「ねえぼくにも見せてよ!」
 姉はわたしを見た。哀れみを含んだ眼で。玲もわたしを見た。もっと哀れみを帯びた眼で。

 母の「マルテの手記」はもう一冊あったのだ。わたしたちの部屋に隠しておいた一冊と、もう一冊は、箱に入った美しい装丁の本だった。その「マルテ」が、わたしの投げつけた本のなかに隠れていたんだ。だれも気づかずに。見つからないように上手に隠してあったのだ。父に見つかるとはずかしめの言葉をあびせられて、心がくずおれるようになったから。母はなんて可哀相な人だ。どれだけ耐えると、明日が来るのだろうか…そういうふうに考えて、わたしたちに、笑顔を見せていたんだ、きっと…

 その母の「マルテ」になにがあるというのだ?姉がようやくわたしにそれを見せてくれた。ふたりの似た哀れみの視線が、わたしの心の波を少しだけかき乱した。姉が指さしたところには、本文と本文のあいだに、びっしりとペンで文字が綴られていた。遠くから見ると。印刷の字が滲んでいるように見えた。
 姉が読んでくれた…「麗紗ちゃん、道緒ちゃん、おふたりがこれを読む頃には、どんな大人になっているでしょう。幸せになってくれているといいのですが。先立つことをお許し下さい。わたくしは母として失格ですね。おふたりを残して行ってしまうのですから。わたくしは、あなたたちの父親を殺しました。わたしを苦しめる棘を取り除きたかったのです。あなたたちにもあの父親がなにをしていたか…わたくしは許せなかったのです。この家の元凶を排除したかっただけなのです。許して下さい。麗紗ちゃん、道緒ちゃん、もっとこの名をたくさん呼びたかった。わたしの大切な双子ちゃん。何時までも愛しています。母より… …あなたたちの父親の首は『ラ・セデュイザーント』の根元に埋めています。どうかこれを読む時には、あなたたちの父親を許し、お墓へ入れてあげて下さい」
 姉は、淡々と、冷たくこれを読んだ。玲はこの愛情に満ちた言葉と、残酷な言葉の差にとまどっているように見えた。
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