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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


  
 「呪われた灰川家」。わたしはその言葉を二度と心に思い浮かべないでいいと、勘違いしていた。ほんとうに思い違いだった。見当違いもはなはだしかった。つまり、わたしの犯した罪が消えたわけではなかった。わたしはすべての罰を受けて、罪をつぐなったわけではなかったのだ。ああ、悪業のうがった穴は、こんなにも深かったのか。姉に助けを求めた。玲にもりょうにも、もう心を痛めさせたくはなかった。わたしのなかの悔い改めさせようとする心が、ふたたび起き上がったのだ。それは、悪辣な心がふたたび芽生え始め、その悪魔を押さえようとする心が生じたのだ。心の葛藤は精神を乱した。どちらがわたしを支配するかはわたし自身にかかっていた。そうして、わたしに試練が与えられた。これに打ち克てば、悪辣を封じ込めることができると言った。しかし、負ければ即死だと…

 わたしは頭が割れ始めた。そういう感覚がするほどの痛みが、頭を引き裂いた。首ごと捥げそうな激痛だった。わたしは苦しんだ。苦しみは狂いになった。母の部屋の本をすべて投げつけた。姉は止めなかった。ただ見ていた。どうしようもなかったのだ。わたしが疲れると、姉と玲はわたしをベッドに縛りつけた。頭痛薬を大量にわたしの口に押し込んだ。そして蛇口につないだホースでわたしの口のなかの薬をいっきに胃へ流し込んだ。痛みがおさまると、わたしは眠り、次の試練までのエネルギーをためた。

 玲とりょうは、姉が以前借りていた家に移った。あまりにもわたしの狂いが尋常ではなかったので、姉がそうさせたのだ。姉とのふたりだけの生活がふたたび始った。わたしは自分の首を切り落とすことを考え始めた。いかにしたら綺麗にこの首を切り落とせるかを、激痛に耐えながら一日中考え続けた。今は耐えているけれども、この痛みからは逃れたかったのだ。
 いいことを思いついた。昔見た映画にいい方法があった。バイクに乗った男が、夜誰もいない道を走っていた。するとある場所を通過したあとに、その男の首は消えていたのだ。誰かがその男の首にちょうど当たるようにワイヤーを張っていたのだ。それは芸術的な切断だった。その男は一瞬のことで何が起こったのか判らなかったはずだ。
 わたしは着々と準備を進めた。それに夢中になっているときは頭痛はおさまった。すると姉が、玲とりょうを呼んでわたしに会わせた。わたしは忙しかった。ふたりにろくに声もかけなかった。りょうはわたしの膝の上に乗ろうとするが、わたしはすぐに立ち上がって、力学に関する本をさがした。そんな本はあるはずもなかったが、あるような気もした。母がそんな本を読んでいたなんて聞いたこともなかったが、もしかしたら、自分の惨めな吊るされ方を数式で記録しようとしたかもしれないじゃないか?わたしがすべての本を投げつける前に、玲とりょうは借家に帰された。いいタイミングだ。姉のタイミングは最高だった。ついこないだもわたしが頭をベッドの柱に打ちつけようと身体をそらせたちょうどその時、どこからか部屋へ戻ってきて、わたしを後ろから羽交い絞めにしたんだ。それぐらい彼女の勘は冴えて、タイミングは逃さなかった。わたしの頭が痛みで濁っていくのに反して、彼女の頭は冴えわたった。わたしに関するシグナルを先に捉えて対処した。
 …姉さん、そんなにもぼくを思ってくれるのかい?…わたしは感謝などしなかった。ほっといてくれと心で言い続けた。なのに姉はわたしを捉えて放さなかった。ほんとうなら頭を打ちつけても大丈夫なやわらかい素材の檻にわたしを入れて、本でも読んでいたかっただろうな…姉にはうんざりした。わたしをかまいすぎた。わたしはキレた。姉がちょっと部屋を出たすきに本をすべて暖炉に投げ入れた。本は半焼けになった。姉は怒らなかった。黙って一冊ずつ、黒く角の焼けた本を棚に戻していった…姉はなぜ怒らない?わたしは怒ってほしかった、姉に叱られて、頬をぶたれたかった…姉さん、愛してる…
 ふふふ…わたしの頭痛は麻薬になった。早く来ないか、待ち遠しいのだ。これがないとわたしではなかった。ぜんぜんわたしらしくなかった。姉にも質問した…どんな具合?ぼくがおとなしいのは…変だろ?変だろ?ねえ、変だろ姉さん!…
 姉はわたしの頭を抱えて撫でていた。わたしの頭をスイカか何かと勘違いしてるんじゃないか?ふざけるな!…わたしは姉を突き飛ばし、ドアに向かって突き進み、ドアにぶちあたった。鼻から血が噴き出た。気持ちよかった。血の味は、姉の味がした。姉の傷口の味が…
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     (八月二十日 午前4:55)
 ふと目覚めると、すこし外が明るいように思えたので、ぼくはそっとうら庭へ出てみた。すると、東の山の稜線がわずかにうすもも色に染まっている。そして、消えかかったオリオン座のうえに、とても美しい月があった。もうすでにほっそりとしてはいたけれども、早朝の不動の空気のなかで、いくつかの恒星を従えて、鮮明に輝いていた。
 その夕…蓮の葉に顔をうずめていた…ほんのりと香りがする。なんて美しい緑色なんだろう。この年もまた、花は見られないのか。ぼくはもうずっと、その極八重の白い花を待っていた。すでに幾年も、かぐわしいこの花に出会っていなかった。
 そして夜、ぼくはじっとしている。とてもしずかな夜を聞くために。うすくらがりのなかで、ぼくは、まどろみもせず、押し黙っている。とても、しずかな夜を嗅ぐために。午後の雷雨に空気が冷えて、ぼくの両腕を冷たくした。思うことはあなたのこと。頭をめぐることばは、あなたの名まえばかり。狂ったぼくの時計をまきもどしてはならないのだ……赤い野薔薇の実のお茶が、口のなかに、ひろがっていった……
 
 ミントの花が泡のように咲いている。ぼくがそばを通るとき、触れると香りして、ぼくを夢の島へ誘う…
 ガーデンピンク‘ローズ・ドゥ・メ’が一輪咲いている。春よりももも色を濃く、ぼくが鼻を寄せると、かすかなクローブの香りして、ぼくをある人の幻影の島へいざなう…
 茉莉花の残り花が、ひとつ、落ちた。ぼくはひろって鼻のそばへ近づけた。残り香が閉じた眼のなかにひろがって、ぼくをまぼろしの青い島へ連れ去った…
 美しい花々は、次々と、ぼくをめぐってあの人の微笑みのもとへひざまずかせる。ぼくがそれを望んでいるのをまるで知っていたかのように…
 仙人草の蕾が無数に準備されている。まるでぼくを夏の雲の高みへ押しあげるために…
 しずかに揺れる真夏の薔薇の蕾は、ぼくを、まるでなまあたたかな葡萄のゼリーのなかへ閉じこめるためのもの…
 夕暮れの藤色のむくげは青く、すがれた花のなかに、ぼくは、あの人への想いを含ませて、胸にしまった…
 そうして、ぼくを待つ花々は、次々と季節をめぐって、あの人のやわらかな陰影のもとへ、ぼくを溶け込ませる。ぼくがそれを夢みていたことを、まるで知り抜いているかのように…
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