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michianri

Author:michianri
せつない 想い…
つたない ことばたち…
やりきれない 心…

『詩片日記…薔薇園…片想い』

第一章『詩片日記』
surrealiste
 hypochondrie
    ~prologue
       灰川道緒

第二章『薔薇園』
     
       鵜沓 綾

第三章『片想い』

       野川美千夫  

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(c) 片想い…
design by Echizen
photo by mizutama

せつない ラヴレター つたない ことば やりきれない 日々… 


       
 Graham Thomas(Austin/1983) × Rosa paniculigera(ミヤコイバラ)の交配種、シュートを伸ばす。葉は、Graham Thomasをスマートにした艶なしの美しい葉。来年もしも可愛い金色の花が咲いたら、「fynon/フィノン」と名づける。一重だったら「フィノンの坊や」とする。ミヤコイバラの、テリハノイバラ系の香りに、ティの香りが混合されて、きっと素敵な香りになるはず。

 「れい様は、Aschermittwoch(アッシェルミットヴォホ・Ash Wednesday/灰の水曜日)という薔薇をご存知でしょうか?ぼくは昨年植えてこの春、花を見ることはできなかったけれど、来年はとてもわくわくしているのです。だってその名前と、そして誕生日…」
 
 Alchymist(アルヒミスト/錬金術師/1956)とともに、Kordesの薔薇には興味を惹かれる。「灰の水曜日」は、葉の表面にも産毛があって、とてもやさしい感じがする。花は、灰白色に少しライラックの色合いが、と書いてあるけれど…
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 玲は、りょうにこの部屋で本を読んでいるように言って、わたしと姉と玲とで父の部屋に入った。カーテンを開け放ち、明かりを入れた。窓をうつ雨音が響いた。ガラスに雨粒が斜めに走り、庭の木々の影を消していた。
 この窓のところで、姉と玲はこのことを話していたのか…玲はなにも言わなかったが、すでに姉からすべてを聞いて知っていたのかもしれない。玲は黙ってわたしたちを手伝った。
 わたしたちは絨毯を剥がした。糊は劣化していたのでそれは簡単に剥がせた。この絨毯は父の死後、この部屋のすべてを取り除いたあとに張り替えたと、伯母の日記にあった。父の本はどこにいったのだろうか。あのチェーホフ全集の数々は…
 …床が出てくると、姉はどこかにある切れ目をさがした。床は杉材がひいてあって、学校の廊下に似ていた。ベッドがあったところには、絨毯を透過した血のまるく大きな染みが黒く残っていて、父の哀れな最期を記録していた。
 姉は思い出したようだ。本棚が作りつけてあった壁際の角にその床下への出入り口はあった。姉がそこをスコップの柄で叩くと、ほこりが割れて床に隙間が現れた。姉はその隙間にスコップを差し込み、蓋をこじ開けた。わたしと玲がそれを持ち上げて壁に立てかけた。冷たく湿った風が床下から吹き上がり、わたしは眼を細めた。暗くてなにも見えない。姉が電灯を灯した。床材と同じ杉の階段が照らし出された。姉はゆっくりと下りていった。そのあとをわたしが続き、玲もわたしの腰をつかみながら続いた。この家の床は普通の家よりもやや高めだったが、それでも床下に入り込むと、膝をついて手と脚で前進した。
 姉はひとこともしゃべらなかった。もう記憶が完全に甦ったのか、迷うことなくまっすぐ家の基礎に沿って窓側のほうへ進んだ。真ん中あたりで姉が止まった。見ると根太に打ち付けられたかすがいに数珠が架けてあった。ほこりで白く見えたが、切れてはいなかった。姉が伯母の数珠を架けておいたのだ。姉が地面を指差した。わたしと玲は、小さな移植ごてでそのあたりを掘った。姉はスコップで土をのけた。みんなもくもくと掘った。数珠の目印があるので間違えようはなかったはずだ。しかし三十センチ掘っても伯母は出てこなかった。わたしは手を止めて姉を見た。玲も姉を見た。姉は掘り続けた。十七歳の記憶が姉の頭を支配しているかのように、一心不乱に掘っていた。土は湿っていた。これ以上掘ると水が湧き出すのではないかと思えるほど湿っていて、移植ごてに土が付いて、重くなった。わたしと玲は少し休んだ。姉が掘り続けるスコップの先を見つめた。一メートル四方を五十センチは掘った。わたしは移植ごての土を手でぬぐって、ふたたび姉を手伝った。
 カチッとなにかにこてが当たった。小さな石のようなものが出てきた。手に取ると奥歯だった。そこから次々と骨が出始めた。割れた皿のような頭の骨も出てきた。骨盤も出てきた。脚の大きな骨もあった。わたしと姉が掘り出す骨を、玲が、わたしが脱いだ上着の上に並べていった。人は十年で骨になってしまうのだ。こんなに湿った土ならなおさら肉は早く融けてしまうのか。伯母の哀れな姿が、わたしの上着の上に、整然と並んでいく。はかないものだ。人は生きている時は死んだ細胞も腐りはしないが、生きるのをやめると、とたんにすべてが腐り出すのだ。死に方も色々だが、姉に皮を剥かれた伯母は、さぞかし悔いただろう。でもしかたない。人はやるべき事と、やってはならないことの区別なんか、ほとんどつかないのだから。死んでから悔やむことしかできないのだ…わたしがそうであったように。
 「ママ、それなに?」
 わたしたちはいっせいにふり向いた。りょうがそこにいたのだ。わたしは冷たいものが身体をくだり、地面へ落ちていったように思えた…でも、だれもりょうを責めたりはしなかった。為るべくしてなったようにみんな感じたのだ。玲はりょうにも骨を並べるように言った。
 「あなたの血のなかにもこの人の血が流れているの、だからみんなで葬ってあげるの…」

 上着の上は骨でいっぱいになった。髪の毛のついた頭の骨もあった。人間の顔の骨はなんと哀れなんだろう。ぽっかりあいた眼の穴と、はずれた顎の骨が、なにも伝えられなくて、なにも言えなくて暗闇に落ち込んでいる。
 姉も上着を脱いで、骨を並べた。これ以上なにも出てこないところまで掘り下げた。土の固さが変わったのだ。
 わたしたちは上着で骨を包み、床下から出た。雨の日の光でもまぶしく感じられた。
 だれもしゃべらなかった。伯母の悔悟と、姉の苦痛を、わたしと玲は理解できたから。伯母の暗黒の孤独と、姉の贖罪を、わたしたちは理解したから。


 わたしは薔薇の枝を焼くための焼却炉で、伯母の骨を焼いた。
 ローズマリーの枝とともに焼ける骨は、黒い煙を吐いて、灰色の空へ登っていった。
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